榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

著者の好きな漢詩と、それを巡るエッセイ集・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2219)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年5月11日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2219)

ヤマボウシ(写真1~4)の白い総苞、ベニバナヤマボウシ(写真5、6)の赤みを帯びてきた総苞が目を惹きます。ユリノキ(写真7)、ブラシノキ(写真8、9)、シャリンバイ(写真10)、イボタノキ(写真11)、ヤブウツギ(写真12)、スイカズラ(写真13)、オオキンケイギク(写真14、15)が咲いています。ノムラモミジ(写真16)は、春から秋にかけて常に紅葉しています。

閑話休題、『漢詩の手帖 いつかたこぶねになる日』(小津夜景著、素粒社)は、著者の好きな漢詩と、それを巡るエッセイ集です。

白居易が、無二の親友・元稹の死の8年後に友の面影を歌った「夢微之(げんしんのゆめ)」は、著者によって、このように訳されています。「よるはてとてを つなぎあい あなたとあそぶ ゆめをみた あさにめざめて はんかちで ふけどなみだは とまらない  ショウホのほとりで としをとり さんどやまいを やしなった カンヨウのきに くさばなに はちどのあきが やってきた  あなたはよみを さまよって ひきずるほねは どろとなる わたしはひとの すがたして ねんねんかみを しろくする  アウェイ ハンラン あいついで かえらぬひとに なったけど よみのせかいは もことして だれのかおやら わからない」。

夏目漱石の漢詩「帰途口号(帰り道に口ずさむ)」は、こう訳されています。「暇だったので二十日間、人間界とおさらばした。 財布が空になったので、帰り道だと気がついた。 自称にすぎぬ隠者ゆえ、人づきあいは欠かせない。 お金も尽きたこの辺で、山から下りることにする」。23歳の漱石が箱根旅行の折に書いた作だが、彼の隠者生活は僅か20日で終わったとあります。

良寛の個性的な漢詩「僕はどこから来たのか」は、このように訳されています。「僕はどこから来て どこへ去ってゆくのか ひとり草庵の窓辺にすわって じっと静かに思いめぐらしてみる 思いめぐらすもはじまりはわからず ましてやおわりはもっとわからない いまここだってまたそうで 移ろうすべてはからっぽなのだ からっぽの中につかのま僕はいて なおかつ存在によいもわるいもない ちっぽけな自分をからっぽにゆだね 風の吹くままに生きてゆこう」。

著者の小津夜景は俳人であるが、漢詩に触発され、訓読みの長い漢字を組み合わせて「三文字俳句」の連作「いしをふみみずをわたる」に挑戦しています。「朧月砉(おぼろづき ほねとかわとがはなれるおと) 燕搏几(つばくらめ はりつけにする かぜがまえ) 英娘鏖(はなさいてみのらぬ むすめ みなごろし) 髏众甃(されこうべ ひとがあつまる いしだたみ) 瑳翠寓(あいらしくわらう かわせみ かりずまい) 而犇飄(しこうして うしがおどろく つむじかぜ) 砅夜漢(いしをふみみずをわたる よ あまのがわ) 醪答侠(にごりざけ あつくかさねた おとこだて) 秋虱痼(あき じらみ ひさしくなおらないやまい) 璡冬隣(ぎょくににたうつくしいいし ふゆどなり) 梟忌磊(ふくろうき いしのごろごろしているさま)」。

漢詩の魅力に気づかせてくれる一冊です。