初デートで青いレインコートを着ていた女性は誰なの!・・・【山椒読書論(654)】
気分がとげとげしくなっていると自覚したときは、書斎の書棚からコミックス『たんぽぽさんの詩(うた)――ほのぼの家族まんが(2)』(西岸良平著、祥伝社)を引っ張り出してくる。
主人公は駆け出しのイラストレイターのたんぽぽさん、夫の慎平ちゃんはカメラマンの卵。それに、可愛い一人娘のスミレちゃん、家族になり切っているネコのトラという顔触れ。彼らが、さまざまな騒ぎを引き起こすが、西岸(さいがん)良平の独特な筆致が、ほのぼのとした雰囲気を醸し出している。
例えば、「青いレインコート」は、こんなふうに展開する。
「まあ、とにかく初めてのデートの記念日を祝って・・・」。「かんぱーい」。「なつかしいわ。あれからもう6年・・・デザインスクールの友だちに紹介されて・・・新宿の東口で待ち合わせたわねぇ」。「あれっ!? 東口だったっけ。西口だったような気がするけど・・・」。
「雨の中に立って、ぼくを待っているたんぽぽの青いレインコート姿がとっても可愛かったなあ・・・」。「うそうそ! 慎平ちゃんたら他の女の人とデートしたときの話をしてるんでしょう!! わたし、青いレインコートなんて持ってなかったもの。わーん。やっぱり、やっぱり・・・!!」。「そ、そんなことないよ・・・」。
翌日、「それにしても、青いレインコートの女の人って誰かしら!? 今晩もう一度じっくり問い詰めなくちゃ・・・!!」。テレビでやっている映画を見て、「あら、青いレインコート・・・この映画、たしかに前に見たことがあるわ。そうだ! 初めてのデートのとき、慎平ちゃんと見た映画だわ。出だしのシーンも、わたしたちの待ち合わせとよく似てるし・・・それで慎平ちゃんがカン違いしたのね」。「振り返れば月日の経つのは早いものだとたんぽぽさんは思うのだった・・・」。「慎平ちゃんにあやまらなくちゃなあ・・・」と結ばれている。
私たちの初デートのときも雨で、女房が傘を差して待っていたことを懐かしく思い出してしまった。