売れっ子作詞家・松本隆の文章論・・・【山椒読書論(661)】
【読書クラブ 本好きですか? 2022年2月8日号】
山椒読書論(661)
『松本隆 言葉の教室』(延江浩著、マガジンハウス)では、売れっ子作詞家・松本隆の文章論が展開されている。
「言葉は潜在意識に届けないと、人の心は動かないんです。潜在意識に言葉を届けるには、つくる側も潜在意識を使う。つまり、頭で考えるものでも、頭でつくるものでもなくて、どれだけ自分を空白に、無にしておけるか、なのです。真っさらな状態がベスト。そこから浮かんでくる言葉で表現する」。
「いい人悪い人とか、そう簡単に割り切れるものでもないし、そんな単純な人間などいません。全部取っ払って、深いところに埋もれているものが、ぼくにとって金脈で、そこまで掘り下げることで言葉が生まれてきました」。
「表現というのは、これまで生きてきたなかで経験したこと、感じたこと、読んだもの、観たもの、聴いたもの、いろんなものが組み合わさって、それが、確かなリズムとバランスで形をなしたとき、人の琴線に触れる力を持ちます。多くの人の心を動かしたとき、その表現は普遍となったあとに残る」。
表現の具体的な方法が丁寧に語られている。
延江浩が、松本をこう評している。「松本さんは、瑞々しい言葉の水源を持つ森の中で風を感じ、世の中の流れを感じとりながら人々を幸福な時間に誘う吟遊詩人だ」。