コロナ禍下における流通・小売業界のデジタルシフトの加速化と、それへの対応・・・【山椒読書論(674)】
『大前研一 デジタル小売革命』(大前研一編著、プレジデント社)では、今回のコロナ禍下における流通・小売業界のデジタルシフトの加速化と、それへの対応がテーマとなっている。
●流通・小売業のデジタルシフト
「アメリカでは、21世紀に入ってから、タワーレコード、トイザラス、シアーズ・ホールディングスといった大手チェーンがアマゾンに顧客を奪われ、経営破綻に追い込まれた。いわゆる『アマゾン・エフェクト』だ。日本でもスマートフォンやSNSの普及により、D2C(メーカーが小売店を介さずに、自社のEC<電子商取引>サイトで消費者に直接販売するビジネスモデル)や『サブスクリプション・モデル(定額を払うことで、一定期間サービスを受けられることを保証するビジネスモデル)』が消費者の支持を集める一方、百貨店など旧来の小売業者は苦境にあえいでいる。中国では、すでにECが最大の流通チャネルとなっているのは周知の事実だ。そして、その中心にいるアリババや京東が、IoT(モノのインターネット)、ビッグデータ、AI(人工知能)などの新たなテクノロジーを利用して、店舗と物流拠点を融合させた新しいサービスモデルを構築している。この流れは、もう元には戻らない。つまり、デジタルシフトに対応できない流通・小売業者は、企業規模に関係なく、ディスラプト(破壊)される運命にあるということだ」。
「生き残りたいのであれば、大急ぎでデジタルシフトを進めるよりほかない。だが、そのためには、『テクノロジー導入』『IT人材獲得』『コスト構造変革』といったいくつかの課題をクリアする必要がある。加えて、これまでの『生産者と消費者とをつなぐ』を超える価値を提供する、新たな流通・小売モデルを構築しなければならないのである」。
●サブスクリプション・ビジネス
「ここ数年、メディアで『サブスクリプション』という言葉を目にする機会が増えた。購入する度に代金を支払うのではなく、月払いなどのかたちで恒常的に料金を支払い、その間サービスを受けられるというのが、サブスクリプション・モデルだ。最近は、ファッションやカバン、時計、タイヤ、はたまたクルマといった、従来はなかったモノのサブスクリプション・サービスが続々と生まれている。また、B2C(企業と一般消費者間の取引)だけでなくB2B(企業間取引)のサブスクリプション・サービスも登場しはじめた。マイクロソフトやアドビ、ソニーといった売切りスタイルで陰りが見えた企業も、サブスクリプションにシフトして大きく業績を伸ばしている」。