榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

夜9時に東京駅を出発する列車に乗ろうとする人々が絡み合う人生ドラマ・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2618)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年6月17日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2618)

シオカラトンボの雄(写真1、2)をカメラに収めました。タチアオイ(写真3)、ラヴェンダー・デンタータ(写真4)、アカンタス(ハアザミ)・モリス(写真5)、アジサイ(写真6)が咲いています。通りかかった家の主からハヤトウリの栽培用の実(写真7)をどうぞお持ちなさいと手渡され、女房が戸惑っています(笑)。我が家では、コクチナシ(写真8)が芳香を放っています。咲き始めたナツツバキ(写真9、10)が多数の蕾を付けています。

閑話休題、殺人や不倫が登場するのに、なぜか心が和らぐのが、赤川次郎作品の特色と言えるでしょう。『雨の夜、夜行列車に』(赤川次郎著、徳間文庫)も、まさに、そういう長篇小説です。

夜9時に東京駅を出発する列車に乗ろうとする、さまざまな人々。講演旅行に出かけようとする、認知症が進行中の元大臣(74歳)と、彼に長年、忠実に仕えてきて、急に妻になってほしいと言われた家政婦。会社を首になったことを家族に言えず、自殺を決意したサラリーマン(45歳)と、彼と結ばれ、自殺を思い止まらせようとする元部下の女性(20歳)。そのサラリーマンを必死に探す娘(17歳)。組織の小金をくすねたため、覚醒剤密売組織と警察の双方から追われる男(29歳)と、その肝が据わった妻(27歳)。この夫婦を張り込み中に、自分の妻の不倫を知った刑事(42歳)。その妻(35歳)は、夫と一緒に張り込み中の部下の刑事(27歳)と不倫中で逃避行を計画しているという賑やかさ。

「一人の女で人生が変る。そんなことが本当にあるものだとは、沼木は考えたこともなかった。ドラマや小説の中ではよくある話だ。ふと行きずりの女とホテルに入り、どこまでも行動を共にすることになる男・・・。そんな役回りを、自分が演じることになろうとは。いや、米田恵理は、決して、「行きずりの女」ではない。しかし、ただ単に、かつて勤めた会社にいた女の子であり、それ以上のものではなかったのである。もし、米田恵理が、自らこうして沼木の胸に飛び込んで来なかったら、沼木は彼女に男としての欲望すら感じることがなかっただろう。『――どうして』と、恵理が呟いた。汗ばんだ肌を、二人はベッドの中で、しっかりと寄せ合っている。沼木は、夢じゃないかと思った。こんな風に、荒々しいほどの情熱をこめて、妻を抱いたことなど、一度もなかった。若いころでさえも」。

ばらばらに見えて、実際は複雑に絡み合う、色取り取りの人間関係を深刻ぶらずに描きながら、男と女の愛とは何かを考えさせる赤川の手腕はさすがです。本書を手にしてよかった! やはり、赤川作品には癒やされるなあ。