教育に携わる者にとって必読の一冊・・・【山椒読書論(797)】
『学校がウソくさい――新時代の教育改造ルール』(藤原和博著、朝日新書)が提唱する教育改革案は、東京・杉並区立和田中学校校長を5年間、奈良市立一条高校校長を2年間務めた体験を踏まえているだけに、具体的で、説得力がある。
著者が考える「学校とは、自律して学び続けられるように集団の力で良い学習習慣と生活習慣をつける装置」である。
目から鱗が落ちたのは、●教員の事務仕事を断捨離せよ、●「最高のオンライン先生」を味方にしよう、●情報処理力から情報編集力へ――の3つである。
●教員の事務仕事を断捨離せよ
▶出席をつけない→高校生にはスマホ持ち込み可にすれば、スマホの位置情報の確認で済む。職員室での先生の出欠確認もスマホで済ませる。
▶板書しない→スマホとタブレットの活用。
▶宿題→タブレットの活用。
▶理解度のテスト→丸付けをしない。タブレットとAIサービスの活用。
▶学校からの連絡→プリントを止める。保護者のスマホへの連絡。
▶保護者との連絡→携帯からの一対一ではやらない。掲示板でコミュニティをつくる。
●「最高のオンライン先生」を味方にしよう
「独力での未来設計は要らない。要するに、自分が生身かつ独りで何もかも教えるのではなく、自分自身を『○○先生』というキャラとして捉え、ネットワークで教える方法を確立すればいい。自分の背後に、何人ものオンライン先生を味方につけ、デジタルの教材にも精通した『ネットワーク先生』を演じること。これが、新時代の学校に求められる教員の姿ではないだろうか。授業の一部は、その教科のその単元を教える『最高のオンライン先生』の動画でいいと割り切る。YouTubeから探してラインナップを揃えるのは、教職大学の在学中に済ませればいいだろう。教職課程を持つ大学のカリキュラムも、もはや、授業の姿をYouTubeやChatGPT登場以降の姿に変えなければ、ウソくさい!」。
●情報処理力から情報編集力へ
「成長社会では『正解』の出し方を知っている方が有利だったし、私企業に勤めても公務員になっても偉くなれた。つまり、正解至上主義教育で育まれた『情報処理力』(答えを早く正確に当てられる力)が日本人の幸福に直接結びついていたわけだ。ところが、正解がないかもしくは減じていく成熟社会では、『情報編集力』の方が大事になる。正解がない問題をどう解くか? そのために必要なのは、まずは自ら仮説を出して、他者の意見も聴きながら『自分が納得し、かつ関わる他者をも納得させられる解』を導く力だ。すなわち納得できる仮説だから、この仮説を『納得解』と呼ぶ。『納得解』を導くためには知識、経験、技術のすべてを組み合わせなければいけないから、『編集』という言葉を使う。文科省がしきりに謳う『思考力・判断力・表現力』のことだと理解していただいて構わない」。
情報編集力の5つのリテラシーとは?
①コミュニケーション・リテラシー =異なる考えを持つ他者と交流しながら自分を成長させること
②ロジカルシンキング・リテラシー =常識や前例を疑いながら柔らかく「複眼思考」すること
③シミュレーション・リテラシー =頭の中でモデルを描き試行錯誤しながら類推すること
④ロールプレイ・リテラシー =他者の立場になり考えや思いを想像すること
⑤プレゼンテーション・リテラシー =相手とアイディアを共有するために表現すること
教育に携わる者にとって必読の一冊である。