榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

行方不明の兄を捜しに、妹が遠い国からやって来た街は絶望の街だった・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3514)】

【読書の森 2024年11月21日号】 情熱的読書人間のないしょ話(3514)

サトザクラ(別名:ヤエザクラ。写真1、2)が紅葉しています。ハボタン(写真3)が冬の訪れを感じさせます。我が家では、ハナモモ(写真4)が黄葉しています。

閑話休題、『最後の物たちの国で』(ポール・オースター著、柴田元幸訳、白水Uブックス)は、一言で言えば、ディストピアを描いた作品です。それも、想像を絶するような酸鼻を極めたディストピアです。

行方不明になった新聞記者の兄を捜しに、19歳のアンナ・ブルームが遠い国からやって来た街は、人間が生存するのに必要な物が悉く欠乏しており、至る所に死が充満している、脱出不能な世界だったのです。絶望に打ちひしがれた人々の精神は、当然のことながら、荒廃しています。

「物はばらばらになって消えてなくなり、新しいものは何ひとつ作られません。人々は死んでいき、赤ん坊は生まれようとしません」。「わかるでしょう、ここにいるとどういう状況に立ち向かわされるかが。ただ単に物が消えるだけではないのです。ひとたび物が消えると、その記憶も一緒に消えてしまうのです」。「この街に来てはじめて、私は深い絶望に包み込まれました」。「私はひしひしと実感しました。死へ向かってまっしぐらに進んでいるのに、本人はそれに気づいてさえいないのです」。「この国ではすべてが消えていくのです。物と同じくらい確かに人間も、死者と同様に生者も」。「想像してみてください。そのころの私たちが、どんな空気のなかで暮らしていたかを。破滅の予感がみんなの頭上に重くのしかかり、一瞬一瞬に奇妙な非現実感が漂っていました」・・・。

著者は、これは近未来のことではなく、現在、起こっていることだと、インタヴューで述べているが、読者に何を訴えたかったのだろう。私なりに懸命に推測してみたが、陰惨な場面ばかりが目の前にちらついて、どうにも考えがまとまりません。