榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

バード・ウォッチャーにとっては垂涎の、八ケ岳の山小屋暮らしの日々・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2179)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年4月1日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2179)

上空で囀るヒバリを撮影するのは至難の業です。幸運にも、地上のヒバリ(写真1~4)をカメラに収めることができました。ズミ(写真5)、サトザクラ(ヤエザクラ。写真6~10)が咲いています。我が家のクルメツツジ(キリシマツツジ。写真11)が見頃を迎えています。庭師(女房)が世話しているオダマキ(写真12)が咲き始めました。因みに、本日の歩数は11,023でした。

閑話休題、『炉辺の風おと』(梨木香歩著、毎日新聞出版)は、八ケ岳の山小屋暮らしを綴ったエッセイ集です。私のようなバード・ウォッチャーにとっては、垂涎の一冊です。

「新しい住人として、初めて山小屋入りした日、ウソの夫婦がベランダに飛んで来て、硝子窓を挟んでほんの五十センチもないような距離でこちらを見上げ、逃げもせずに辺りを歩き、飛び回っていた。八ケ岳界隈には鷽沢(うそざわ)という、ウソの多い土地があるそうだから、ここもそうなのかもしれない。実際、野鳥の多いところなのだ。最初に案内されて入ったときもそうだった。私がベランダからの景色に見入っていたとき、いっしょに見て回っていたひとが、風を通そうと、風呂場の窓を開けたらしい。そして私が風呂場を案内されたのはその直後。説明を聞き、窓を閉め、出て行こうとしたそのとき、窓辺でなにか動くものの気配を感じた。え? 鳥? よく見ると、『ミソサザイだ!』。Mさんと私はほとんど同時に声をあげた。・・・ベランダに出ると、キツツキの開けた穴がいくつか、庇にあるのを見つけた。・・・凍えながらベランダに出て夜空を見上げると、ざわざわとうごめく木々のシルエットの間から、息を呑むようなまばゆさで、冬の星座が輝いていた」。

「ハイタカが、ダケカンバやコメツガの林のなかを低く滑空していった。一瞬辺りの空気が凍りついたようだった。どうりでさっきから小鳥たちが静かだと思った。八ケ岳の小屋には連日キビタキやコガラ、ゴジュウカラなどが訪れるようになった。カラ類は冬場もいるとして、キビタキをこれほどふんだんに、日常的に見られるときがくるとは思いもしなかった。・・・暖かい東南アジアで冬を越したキビタキは、五月の初め頃に日本に渡ってくる。・・・キビタキは黒の地に黄色や白が入り、腹側はレモンイエロー、特に喉の辺りは黄色がオレンジにまで濃くなった色合いで、この色を見るといつも、栄養豊かな卵の濃い黄身を思い出し、こちらの体内にエネルギーが充填されたような気になる。日本に渡ってくる小鳥の中でも鮮やかさはトップクラス、囀りも朗らかな美声の持ち主」。何とも、羨ましい限りだ!

「木立のなかに、小さな小鳥が見える。ムシクイの仲間?と双眼鏡で覗けば、キクイタダキの雄、しかも冠がオレンジ色(大抵は黄色)だった。ここでキクイタダキを見たのは初めてだったので、しばらくは夢見心地。ベランダには馴染みのコガラやヒガラが訪れている」。

「テラスの下にいつの間にかシカが現れ、カラマツにアカゲラが来たのを、心のなかでおうおうと目を丸くして見ていた・・・アカゲラが時折うつくしい羽を広げ、その下の欄干ではリスが何もかも忘れてヒマワリの種を食べている図を密かに楽しんだ」。

「数日前の午前中、突然庭でウグイスが鳴いた。初音。よく晴れた日だった。最初のホーホケキョからケキョケキョ・・・の谷渡りの部分まで、初音にしては上出来だった。冬になると庭の小暗い藪の下、落ち葉に覆われた地面を、音もなく出入りしている地味な小鳥の姿を、目の端で捉えることがある。・・・ああ、ウグイスだな、と思うのだが、何しろ動きが素早く、瞬間でしか確認できないので、百パーセントの確信はない。だから続く春、ウグイスの鳴き声が聞こえると、あのときの『当てずっぽう』が、限りなく百パーセントに近づくのだ」。

羨ましのあまり、溜め息をつきっ放しでした。