榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

社長候補の専務の娘と結婚したが、専務が不祥事で会社を追われたため、冷や飯を食わされ続け、定年退職した男に起こった不思議なこと・・・【山椒読書論(827)】

【読書の森 2025年1月3日号】 山椒読書論(827)

閑話休題、コミックス『黄昏流星群(72)――悲しき星の下に』(弘兼憲史著、小学館)に収められている「星春の蹉跌」は、31歳の時、有力な社長候補であった専務の娘と結婚したが、専務が不祥事に関わり会社を追われてしまったため、冷や飯を食わされ続け、昨年、定年退職した61歳の男の物語である。

男がラーメン屋で食事中、テレビに映ったのは、何と、若い頃、付き合っていたが、専務の娘と結婚するため、捨てた女性の出世した姿ではないか。

あの時、彼女と別れなかったら「違う人生が送れたのに・・・まさか彼女が、こんなに大出世するとはな・・・いくら悔やんでも、あとの祭りだ」。

この後、男は不思議な体験をする。

誰と結婚しても、その人の人生は変わらない。人生は、他人の幸運で決まることではなくて、自分自身が決めること――だと、男は思い知らされる。

上質な短篇小説を読み終えたような気持ちになった。