ジャック・ウェルチから直に学んだリーダーシップ・・・【MRのための読書論(83)】
外資系企業で働くということ
向上心のあるMRは、『世界で通用するリーダーシップ』(三谷宏幸著、東洋経済新報社)から多くのヒントを得ることができるだろう。「変化の中に身を置けば、面白い仕事ができる」という著者の考え方が、全篇を貫いている。
この書の魅力は3つある。第1は、著者が自らの上昇志向を正直に述べていること。変に隠すことなく、ストレートに表白しているので、好感が持てる。第2は、グローバル企業、外資系企業の実態が生き生きと描き出されていること。外資系企業で働いている人、働きたいと思っている人にとっては、大いに参考になるだろう。第3は、あのジェネラル・エレクトリック(GE)のジャック・ウェルチのリーダーシップが臨場感豊かに語られていること。
上昇志向の塊
35歳で川崎製鉄(現・JFEスチール)退社を決断した時、「最終的に決断を下したのは、自分自身に対する問いかけだった。お前はどうやって生きていきたいのかと。答えは意外にシンプルだった。自分が本当に燃えることに挑んで生きていきたい、ということが結論だったからだ。このとき、米国で学んだ考え方が自分を後押しした。挑戦しなければ何も得られないと痛感していたからだ」。
「決断も挑戦もせず、手堅く安全に物事をやり過ごしていたような人が、不確実でリスクの高い判断を行わなければならないトップになんか、上がれるわけがないのだ、苦しくても決断し、挑戦してきた人たちだけが、権利を手に入れられる」と手厳しい。さらに、「(国際競争力が低下してきた)企業や国家が置かれている状況は、経営や成長に大きな影響を及ぼす。経営者やリーダーにとっては、不利な状況に置かれていることは実は大きなチャンスなのである」というのだ。
外資系企業におけるリスク
外資系企業における人材育成の仕組みは、「そこでは選抜した人たちに新しいキャリアを与えて、そこでさらにテストして評価する。つまり、部門や専門を超えて、人材を育成することを行っていく。そうすることによって将来のリーダーたちは個別の上司との相性を超越して自分の能力を証明していくことができるようになる。そうしたサイクルを何回か繰り返し、勝ち残ってきた人たちを登用するのだ」。
また、「外資におけるリスクと、どう付き合うか」では、「最大のリスクは、どんな上司につくのかということにある。自分ができることと、上司が評価してくれることは、多くの場合は一致するが、相性次第では違ってくることもありうるからだ。加えて外資では日本企業に比べ、評価が処遇の大きな差を作りやすい。・・・むしろ、米国人の方が度量が広いと思う場面が多かった。彼らはそもそも性格が明るい。そして上昇志向というべきか、上を向いて努力している人間に対する評価は一般的に高いことが多い」と語っている。「上司はパフォーマンス(業績)と、個人としてのバリュー(価値)の2つの軸で人を評価する」、そして、人材を見抜く方法の一つに「『エレベーター・スピーチ』というやり方がある。それは、エレベーターで偶然一緒になって、『今の仕事の問題点は』と上司に突然声をかけられたときに、どう答えるかというショートプレゼンテーションである。この時間は1分もない」とは、油断も隙もない。
ジャック・ウェルチの本質
「とりわけGEで学んだのは、『ストレッチ』という考え方である。これは自分の能力より上の目標を自らが設定して、それに挑んでいくやり方である。こうした行動を繰り返すことで、自分の成長に自分で限界を作らず、常に成長を続けていくことができる」、「ウェルチは、とんでもない集中力と、とんでもないエネルギーを持っていた。それを強烈に外に押し出していく。『なぜ』『どう思う』『どうやって』と質問することで、相手に分析的な思考を促す。コンサルタントとしての鋭さがある一方で、経営者としての強いパッションで相手に圧倒的な熱量を与えていった」という言葉に著者の実感が籠もっている。
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