私たちの宇宙は「幸運」なのか・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3771)】
撮影助手(女房)が子育て中のツバメ(写真1~8)を見つけました。スズメ(写真9、10)がパン屑を啄んでいます。サルスベリ(写真11、12)、ノコギリソウ(写真13、14)が咲いています。
閑話休題、『並行宇宙は実在するか――この世界について知りうる限界を探る』(松下安武著、野村泰紀監修、みすず書房)のおかげで、マルチバース宇宙論について理解を深めることができました。
●宇宙論の分野では、今、「私たちの宇宙以外にも、宇宙は無数に存在する」と考える理論が大きな注目を集めている。このような理論は「マルチバース宇宙論」と呼ばれている。
●誕生直後の宇宙は「インフレ―ション」と呼ばれる凄まじい空間の膨張を起こした。誕生直後にインフレーションがあったと考えると、ビッグバン宇宙論が抱えていたさまざまな問題が一挙に解決する。インフレーションが終了すると、インフレーションを引き起こしていたエネルギーによって、宇宙に物質と光が生まれた(ビッグバン)。
●永久インフレーションに基づいて考えると、インフレーションを続ける空間の中で、「泡宇宙」が無数に生まれたことになる(永久インフレーションに基づくマルチバース)。
●「宇宙は無数に存在する」というマルチバースの考え方は、永久インフレーションに基づく確率的なマルチバース宇宙論以外にも、さまざまな理論モデルがある。
●超ひも理論は、あらゆる素粒子の正体を同じひもだと考え、ひもの振動状態が変わると、異なる素粒子に見えると考える。超ひも理論は、マクロな世界の重力理論である一般相対性理論と、ミクロな世界の理論である量子論を統合する理論の有力候補である。マルチバース宇宙論の土台の一つ、超ひも理論は未完成であり、実験や観測による検証を経ていない。
●ミクロな世界の物理学である量子力学には、さまざまな解釈がある。量子力学の解釈の一つ「多世界解釈」によると、世界は時々刻々と枝分かれしており、可能性の数だけ、無数の並行世界が存在していることになる。多世界解釈に基づいた量子マルチバース宇宙論によると、無数の宇宙は私たちの世界と地続き
ではなく、「確率空間」の中に存在している。
●マルチバース宇宙論によると、宇宙は一つではなく、無数の並行宇宙からなる入れ子構造になっている。私たちが観測可能な領域と同等の「レヴェル1並行宇宙」が無数に集まった「レヴェル1マルチバース」、そしてレヴェル1マルチバースを内包する「レヴェル2並行宇宙」(泡宇宙)が無数に集まった「レヴェル2マルチバース」、さらにレヴェル2マルチバースのあり得たそれぞれの歴史が「レヴェル3並行宇宙」として存在し、それらが無数に集まって「レヴェル3マルチバース」を構成している。
巻末の「監修者解説 並行宇宙論の衝撃」には、文字どおり衝撃を受けました。「私たちの住む宇宙が『良くできすぎている』ことを説明するために、さまざまな異なる宇宙が存在すると考える必要があるということです。・・・真空のエネルギー密度(の絶対値)が私たちの観測した値よりも十分大きい場合、そのような宇宙には知的生命体はおろか、銀河や星などの構造も何も生まれないことが計算によって示せるからです。もし膨大な種類の宇宙があれば、その多くでは真空のエネルギー密度が大きすぎて何も起こらなかったとしても、真空のエネルギー密度がたまたま小さかった宇宙には、私たちのような観測者が生まれ得ます。そして、観測者はこのような宇宙にしか生まれないのですから、その観測者が宇宙を観測した場合には、絶妙に小さく調整されたかのように見える真空のエネルギー密度を観測することになります。・・・マルチバース理論が近年、科学界で真剣に取り上げられるようになった理由としては、このようにたくさんの宇宙があると考えなければ説明がつかないような現象がいくつも見つかってきたということがあります。それに加え、自然界の基本原理である量子力学を重力の理論と統一するほぼ唯一の理論――超弦理論(超ひも理論)――に、さまざまな種類の宇宙を作るメカニズムが自動的に組み込まれていることが分かってきた、ということも、その理由の一つです」。すなわち、私たちの地球や宇宙が私たちが生存するのに都合良くできすぎているのは、「たまたま」だというのです。それこそ無数にある惑星や宇宙の中に、こういうできすぎな惑星や宇宙がたまたま交じっていてもおかしくないというのです。