榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

たった7日間で、本当に頭がよくなるのか・・・【あなたの人生が最高に輝く時(40)】

【ミクスOnline 2014年5月15日号】 あなたの人生が最高に輝く時(40)

正直な著者

7日間で突然頭がよくなる本』(小川仁志著、PHPエディターズ・グループ)は、そのエッセンスを身に付ければ、1週間で頭脳のレヴェルが大幅に向上する魔法の本である。

著者は、かなり正直である。「実は私はあまり頭がよくありませんでした。・・・私がすごい人間でないことは、就職してからも明らかになっていきます。威勢のよさだけで採用してもらった伊藤忠商事でも落ちこぼれます。その後フリーターとして4年半を過ごすわけです・・・その後30歳になってなんとか名古屋市役所に拾ってもらうのですが、そこでも落ちこぼれです。では、そんな私がいったいどうして哲学者などと名乗り、偉そうにテレビや新聞で発言し、高専や大学で教え、20冊もの本を出しているのか。それはある魔法を身に付けたからです。その魔法が、私に特殊な能力を与えてくれました。そう、もうおわかりですね。『哲学』です。つまり、哲学との出会いが、私を『頭がよい人間』に生まれ変わらせてくれたのです」。

頭がよいとは

白状すると、私は、「頭がよい」という言葉には反感を覚えてしまう。「頭のよい」著者は、そういうこともあろうかと先手を打っている。「私のいう『頭がよい』とは、物事の本質をつかめる人のことです。会議でも授業でも、いったいいま何が問題になっているのか、何の議論をしているのか、それがきちんとわかることが、本質をつかむということです。人の話を理解するときもそうです。相手の言葉の意味をしっかりとつかんで、応答する。それができる人を、私たちは『頭がよい人』と呼ぶのです」。

7日間のスケジュール

7日間のフロー・チャートは、こうなっている。「1日目:社会のことを知る→2日目:哲学の知識を身につける→3日目:哲学の論理パターンを使いこなす→4日目:物の見方を変える→5日目:言葉の意味を膨らませる→6日目:言葉を論理的に整理する→7日目:一言でキャッチーに表現する」。

社会を知るには

1日目の「社会のことを知る」には、自然学(科学)、歴史、文学、時事の4つの分野について、常識的な教養があればいいというのだ。「そのためにはどうすればいいのか? 読書をすることです。・・・私たちは教養を深めれば深めるほど、自由な思考を手に入れることになるのです。しかもそれは読書をするだけで成し遂げられるのです」。

哲学を知るには

2日目の「哲学の知識を身につける」には、「哲学史を押さえる」ことと「哲学概念に親しむ」ことで、哲学のボキャブラリーを増やそうと呼びかけている。

「ひと目でわかる哲学史」が、たった1ページの一覧表として整理されているが、これは非常に役に立つ。古代ギリシャはソクラテス(無知の知、問答法)、プラトン(イデア説)、アリストテレス(現実主義)、中世はアウグスティヌス(プラトンの二元論的世界観をキリスト教に援用)、トマス・アクィナス(アリストテレスの目的論的世界観をキリスト教に援用)、近代はデカルト(生得観念論)、ロック(経験の重視)、カント~ヘーゲル(ドイツ観念論)、マルクス(社会主義)、キルケゴール(実存主義)、現代はデリダとドゥルーズ(ポストモダン)、アドルノ(否定弁証法)、アメリカの政治哲学(リベラリズム)――を知っておけば十分間に合うというのだから。

論理を知るには

3日目に説明される「賢くなるための論理パターンベスト10」は、「①カテゴリー:種類ごとにグループで分ける、②主観と客観:主体と客体で区分する、③時間と空間:時間軸と空間軸に位置づける、④イデア:物事の正体を見抜く、⑤運動として捉える:動いている途中として見る、⑥弁証法:マイナス要素をプラスに転じる、⑦差異として捉える(否定弁証法):差異を重視する、⑧構造主義:構造の中で捉える、⑨因果関係:原因と結果の関係として見る、?人間にとっての意味:人間の存在を前提に考える」となっている。

本質をつかむには

4日目の「物の見方を変える」には、頭をほぐす必要があるという。「物事の本質をつかむためには、複数の側面から対象を眺めることが大前提です」。「常識を疑うのです。それは固定観念を捨てることを意味します。それが新発見の始まりであり、本質をつかむための糸口となるのです」。

先ずグループに分けよ

6日目の「言葉を論理的に整理する」とは、情報でいっぱいになっている頭の中を整理することだという。「論理的に話せない人へのとっておきのアドバイス」は4段階から成っている。「グループに分ける→グループ内の複数の言葉を1つにまとめる→(3日目に学んだ)10の哲学概念を使って整理する→1つの文にする」。

哲学は魔法だ

著者が言うとおり、「哲学的思考は魔法だといっても過言ではないでしょう。何しろ他の人に見えない物事の本質が見えるのですから。ここで私がいいたいのは、何かを長く続けるには『好奇心』を持つことが最善の方法だということです。好奇心さえ持つことができれば、モチベーションを維持することは可能です」。好奇心が芽生えた今こそ、早速、本書で魔法を身に付けてしまおう。魔法を使える人と使えない人との差は、人生の先に行くほど大きく開いていくのだから。