医薬品産業で働く人にとって最新・最良の戦略テクスト・・・【MRのための読書論(75)】
最新・最良のテクスト兼ガイドブック
『医薬品産業戦略マネジメント――マーケティング視点で説く』(佐藤睦美著、東急エージェンシー)は、MRにとどまらず、製薬企業、研究開発型ヴェンチャー、CRO、SMO、CSO、医薬品卸、コンタクト(コール)・センター、医療関連IT企業など医薬品産業で日夜、頑張っている人々に目を通してほしい一冊である。また、これから医薬品産業で働くことを目指している人々にとっても、恰好なガイドブックとなるだろう。
私がこの書を薦める理由は3つある。第1に、医薬品産業に関する最新情報が漏れなく手際よく整理されていること。連日、業界紙誌で伝えられる膨大な情報がテーマ毎に時系列でコンパクトにまとめられている上に、それらの情報の意味するところが簡潔に述べられている。第2に、さまざまなマーケティングの分析手法が医薬品産業における具体例として応用されていること。マーケティングの参考書を読む場合は、通常、それぞれの手法を医薬品産業用に自分の頭の中で翻訳しなければならないが、この本ではその手間が省けるので、ドンドン読み進めることができる。第3に、豊富な経験に基づき、著者自身の見解・予測が明快に表明されていること。
一言で言えば、医薬品産業に身を置く私たちにとって、最新・最良の戦略テクストと言える力作である。
業界紙誌情報の時系列縮刷版
第1点の最新情報については、「グローバル時代の医薬品業界」とのタイトルのもと、「世界市場のボーダーレス化」、「世界の医薬品業界の再編」、「世界規模で広がるバイオベンチャーの買収」、「世界の医療用医薬品市場動向」、「『ドラッグ・ラグ』と進む海外での新薬開発」、「特異な戦略をとる第一三共」、「ジェネリック医薬品」、「バイオシミラーの時代」、「新医薬品産業ビジョン」のテーマ毎に整理・解説されている。
当然、具体的な製薬企業名が頻出するが、「当時世界第13位の企業が同4位の企業を買収したという、まさに”小が大を喰う”再編劇は、これから先も見られないかもしれない」といった、この著者らしい直截な表現が散見される。
マーケティング手法の医薬品産業応用編
第2点のマーケティング手法については、2つだけ例を挙げておこう。著者は、「顧客志向」を徹底させるために、グレン・アーバンが提唱する「アドボカシー(顧客支援)・ピラミッド」の活用を勧めている。これは顧客の利益・満足度を最大化することを目指しており、4段ピラミッドの最下段に「TQM(トータル・クウォリティ・マネジメント)」と「CS(カスタマー・サティスファクション)」を配し、その上段に「CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)を活かしたマーケティング」、さらにその上段に「アドボカシー」を位置づけることによって、最上段の「顧客志向企業」を実現させるというものである。
もう1つは、パチェンティ・ジュリオ・チェザレの「ポートフォリオ分析」を用いて、潜在顧客の炙り出しと現状顧客利益貢献度を一目で認識できるようにしようというものである。この分析によって、自社の顧客を「成長している顧客」、「成熟した顧客」、「開拓すべき顧客」、「手を引くべき顧客」の4つのゾーンに分けることができる。担当医療機関およびドクターがどのゾーンに属するのかを改めて可視化することで、戦略の練り直しをする必要性を実感することができるというのだ。
第3点の著者独自の見解については、「後発ブランドが先発ブランドに勝てる戦略」、「アウトバウンド(電話担当者がこちらから積極的に顧客に働きかけること)機能を備えたコンタクト(コール)・センターの設置」、「日本のジェネリック業界が生き残るための3つの大胆な戦略」、「モバイル時代のマーケティング戦略」、「会社は逆に”授業料”をくれるビジネス・スクール」、「競合他社とのアライアンス(連携)を実行せよ」、「売れないMRほど忙しい」、「無計画訪問による時間のムダ」、「ドクターのインサイト(ニーズのさらに奥にある本質的な欲求)を見極めよ」、「現在の上司に拒否権のないMRフリー・エージェント制度」などなど、それこそ枚挙にいとまがない。
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