榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

論理的に考え、論理的に書くとはどういうことか・・・【MRのための読書論(116)】

【Monthlyミクス 2015年8厚号】 MRのための読書論(116)

論理的に考え、書く

シカゴ・スタイルに学ぶ論理的に考え、書く技術――世界で通用する20の普遍的メソッド』(吉岡友治著、草思社)は、大学でリポートや研究・学術論文を書くためのガイドブックであるが、ビジネスパースンが企画書や報告書を書くときにも大いに役立つ一冊である。その上、書く場合だけでなく、論理的に考える力もしっかり鍛えてくれるのだ。

文から段落、全体へ

「文のつくり方とつなぎ方」の章は、「シンプルな文をつくる」、「キャラクターとアクションで描く」、「接続語を上手に使う」、「しりとりの流れをつくる」で構成されている。「段落のつくり方」の章は、「ポイントとサポートに分ける」、「読者の知りたい内容から先に書く」、「ツッコミと応答で対話する」、「アイディアをすべて言い尽くす」で、「全体を構成する」の章は、「基本構造は問題と解決である」、「良い問題と良い解決」、「理由・説明・例示の3点セット」、「論理とは言い換えだ!」、「論と例は一対一に対応させる」、「結論は解決の繰り返し」で、「理解から批判につなげる」の章では、「要約しないと議論は始まらない」、「根拠を一つずつ検討する」、「批判する人と反批判する人」、「批判に対抗するには?」、「予測や提案につなげる」、「対立を解消して新しい発想へ」で成り立っている。

具体的なアドヴァイス

「『明快で論理的な文章』を書くには、いくつか守らなければならない方法があります。①大事な内容を確定して、それをなるべく早く読者に知らせる、②文章全体の見取り図を一瞬で理解できるようにする、③一番大事な内容とそれほどでもない内容を区別して書き分ける、などです」。

「段落のつくり方には一定の原則がある。それはポイントからサポートへの流れである。段落冒頭になるべく1文で言いたいことを簡潔にまとめ、それから、理由・説明・例示などの細かな情報を述べていく。つまり、根幹の情報から枝葉末節へ、という順序である。これをポイント・ファーストという」。

「文のつなぎ方は、漫才のやりとりのように構成すべきである。つまり、さまざまなツッコミや疑問、反対意見を言ってくる『他人』を想定して、それに丁寧に応答する流れをつくる。そうすれば、疑問は解消されて、説得的な議論ができる」。

「論文の全体構造は『問題+解決+根拠』の形で整理できる。問題は、疑問・対立・矛盾などのテンションの形で表れるが、その問題を解決するのが、論文である。その意味で論文を書くときは、既存の学問的方法を利用しつつも、新しい問題に取り組む必要がある」。「テンションがなくて、事実factばかり書き並べるようでは、報告文にはなっても、意見論文になりません。読む人が興味を感じるような魅力的な疑問・対立・矛盾を見つけ出すことが、書く第一歩だし、論理的文章を読みとくときも、それが手がかりになります」。

「問題の重大さを強調することが大切なのに対して、解決では何が大切なのでしょうか? それは明快さclear and distinctです。clearとは明確に表現されていること。distinctとは他のものと紛れがなく、くっきりと区別されていることです」。

「読者を納得させるには、根拠の充実が必要になる。基本的な根拠は理由・説明・例示(データ)の三つ。これらは、どれも同じメッセージを伝えるが、伝え方はそれぞれ違う。理由は大雑把な考え方を示す。それを説明でくわしく論理的に言い換え、具体的な数値や事実を挙げて『なるほど』と思わせる」。

「要約summaryがうまくできることは、論文=論理的文章を理解するうえで重要なスキルです」。 

「良い根拠とは、解決をきちんと正当化できているかどうかで決まります。逆に、根拠薄弱とは、それができていないものです。根拠の基本は、理由reason、説明warrant、例示evidenceの三つですので、それぞれに良いかどうかチェックをしなければなりません」。

本書は、著者が学んだ「シカゴ・スタイル」という論文メソッドに準拠しているが、これに拘ることなく、論理的に考えるとはどういうことなのか、どういう手順を踏んだらその伝達が明瞭になるのか、どうすれば明快に理解できるのか――その方法を明らかにしようとさまざまな工夫が凝らされている。