人工知能を飛躍的に進化させた驚きの技術とは・・・【MRのための読書論(173)】
知能をつくる
『人間を究める――スタディサプリ 三賢人の学問探究ノート(1)』(スタディサプリ「進路」編、松尾豊・長谷川眞理子・廣野由美子協力、ポプラ社)に収められている「知能はつくることができるのか?」(松尾豊協力)は、人工知能がテーマである。高校生向きに書かれたものだが、大人にとっても大いに役に立つ。人工知能について、これほど分かり易く書かれている本には滅多に出会えないからである。
少年の挑戦
「これは、考えることが好きな少年が、一つひとつ普通に考え続けた結果、『知能をつくる』という壮大な挑戦をすることになったお話です」。
「コンピュータに人間の意識をコピーすることを通じて『人間の意識って何?』と考えるのと同じように、自分が知能をつくる研究をすれば『自分って何?』という哲学の問いをコンピュータを通じて解明することができるかもしれない――」。
人工知能の可能性
「普通に考えたらできないはずのないことが、今はまだできていない――これは、すごいチャンスなのではないか」。
「私が人工知能はできないわけがないと考えたのは、人間の脳は、電気信号が流れる『電気回路』でできているからです。人間の脳の中にはたくさんの神経細胞があって、電気信号が行き来しています。何かを学習すると、その電気回路が少し変化します。同じ電気回路のしくみでできているのが、コンピュータに内蔵されている『CPU』と呼ばれるものです。CPUとは、コンピュータの中心となる大事な部分で、コンピュータに関わるさまざまな装置を望み通りに動かしたり、電気回路を流れる信号を受け取って、計算をしたりします。人間の脳もコンピュータも電気回路でできているとしたら、人間が考えたり認識したり記憶したりすることは、すべて何らかの計算としてコンピュータで実現できるのではないか、と私は考えたのです」。
ディープラーニング
「この『考える・判断するためのモデルを、人間がコンピュータに教えてあげる』というプロセスの部分が、人間とコンピュータの間にある高い壁でした。しかし、最近になって、この高い壁を乗り越える可能性がある驚きの技術が生まれたのです」。
「生まれた驚きの技術は、『ディーブラーニング』といいます。これは人間の脳の神経回路をまねたしくみで、膨大なデータをもとに特徴量を自動的に獲得する技術です。・・・ディープラーニングの技術が生まれたことで、その先にさまざまな可能性が広がりました。例えば、ディープラーニングによって進展したもののひとつに、コンピュータが動作の系列を学習するしくみがあります。①今、どういう状態で、②どういう行動をすると、③報酬がもらえる/もらえない。これらを判断し、③で報酬がもらえたら、次に同じ動作を行うときには、報酬がもらえた②の行動をがんばるといったものです。この学習のしくみ自体は以前からありましたが、①の部分をこれまでは人間が教えてあげていたわけです。ところが、ディープラーニングの技術によって、『今、どういう状態なのか』ということもコンピュータが認識できるようになりました」。「特徴量」とは、コンピュータが認識するのに必要な、認識対象の特徴を数字やデータで表したものである。
「人間が、コンピュータの行う計算や判断のもとになるモデルを与えるのではなく、コンピュータ自身が人間の脳のように情報処理を行うことが可能になり始めた――これが、今起きていることです。この先、ディープラーニングの技術を活用すれば、画像を認識することだけでなく、画像や映像を見て、コンピュータが何らかの行動を予測したり異常を検知したり。いずれはコンピュータ自身が言語を理解したり、これまでとはくらべものにならない規模の知識を理解できるようになったりするかもしれません」。
さらなる挑戦
「私は、今日も『知能をつくる』挑戦をしています。ディープラーニングという技術をえて、コンピュータは人間との間にあった高い壁を突破したように見えますが、まだまだ人間の知能と同じレベルには至っていません。でも、研究の過程で生まれた新しい技術が、今、社会を少しずつ変えようとしています。知能をつくる過程で生まれた技術を、社会にどう役立てていくのか?――それを考えることも私の研究の一部です」。
これまで人工知能の未来には、どちらかというと悲観的だったが、本書の影響で、私はすっかり楽観論に染まってしまったのである。
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