退職記念旅行で訪れた先々で、かつての同僚女性社員が次々に殺される・・・【山椒読書論(94)】
【amazon 『解明旅行』 カスタマーレビュー 2012年11月1日】
山椒読書論(94)
外国の推理小説では、ウィリアム・アイリッシュ(コーネル・ウールリッチ名義でも他の推理小説を執筆)の『幻の女』が一番好きだが、日本では、草野(そうの)唯雄の『解明旅行』(草野唯雄著、光文社文庫。出版元品切れだが、amazonなどで入手可能)に先ず指を屈さざるを得ない。因みに、草野が敬愛してやまない作家がアイリッシュなのである。
関東相互銀行本店を総務部次長で定年退職した巽(たつみ)耕平は、かつて部下であり、その後、後妻に納まった治子とともに、退職記念旅行に出発する。一時期、同じ会社で巽の部下として、治子の同僚として働き、そして去っていった女性社員たちは、15年後の今、どこで、どんな人生を送っているのか。指宿の淵美津江、福井の徳納光子、佐渡の島田節子、塩釜の戸塚千春を順に訪ねるスケジュールに沿って旅は進むが、なぜか巽夫婦と再会を果たした直後に、美津江、光子、節子が殺されるという不可解な事件が発生する。
妻には内緒にしていたが、巽は、社長派と専務派の抗争下で起こった15年前の専務変死(毒殺?)事件に妻を含む5名の女性社員の誰かが関与していたのではないかと疑っており、その解明旅行も兼ねていたのである。
これまで国内外の推理小説を読み漁ってきたが、ユニークな発想、秀逸なプロット、巧みに描き分けられた登場人物、文章に漂うしっとりとした情感にとどまらず、人生とは何か、男女の愛とは何かを考えさせるミステリは、そうそうあるものではない。ミステリの生命線ともいうべきサスペンスの連続なので、時間を忘れて一気に読み通してしまうことになる。さらに、思いもしなかったどんでん返しが何度も用意されているのだ。