榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

ファシズム、人種差別、弾圧、戦争、人間とは何かと、私たちに問いかけてくる作品・・・【山椒読書論(571)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年8月6日号】 山椒読書論(571)

アドルフに告ぐ』(手塚治虫著、文春文庫ビジュアル版、全5巻)の第5巻では、米軍による日本空襲と敗戦、連合軍に追い詰められるヒットラーと、その死が描かれている。

「誰も彼も・・・日本中の人間が戦争で大事なものを失った。それでもなにかを期待してせい一杯生きてる人間てのはすばらしい」という峠草平の台詞、「おれはあの日から何千人ユダヤ人を殺したかな・・・子どもに殺しを教えることだけはごめんだ。世界中の子どもが正義だといって殺しを教えられたら、いつか世界中の人間は全滅するだろうな」、「おれの人生はいったいなんだったんだろう。あちこちの国で正義というやつにつきあって、そしてなにもかも失った・・・両親も・・・友情も・・・おれ自身まで・・・おれはおろかな人間なんだ。だが、おろかな人間がゴマンといるから、国は正義をふりかざせるんだろうな」というアドルフ・カウフマンの述懐が胸に突き刺さる。

アドルフ・ヒットラー、アドルフ・カウフマン、アドルフ・カミルという3人のアドルフを巡る長篇漫画『アドルフに告ぐ』は、ファシズム、人種差別、弾圧、戦争、人間とは何かと、私たちに鋭く問いかけてくる。