榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

ユダヤ人が、ユダヤ人という理由だけで理不尽な扱いを受けていた・・・【山椒読書論(569)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年8月4日号】 山椒読書論(569)

アドルフに告ぐ』(手塚治虫著、文春文庫ビジュアル版、全5巻)の第3巻は、昭和15(1940)年の日本が舞台である。特高に付け回されている女教師・小城は、極秘文書をかつての教え子である神戸在住のアドルフ・カミルに預かってもらう。

一方、ドイツのアドルフ・ヒットラー・シューレに留学したアドルフ・カウフマンは、ナチスのユダヤ人に対する仕打ちに悩みながらも、ナチスの教育に感化されていく。ある日、学校を訪れたアドルフ・アイヒマン大尉から、反逆もしくはスパイ容疑で捕らえられたユダヤ人たちの銃殺を命じられ、逆らえずに二人を撃ち殺してしまう。その内の一人は、密命を帯びて日本から欧州にやって来た、親友アドルフ・カミルの父親であった。

その頃、ドイツではユダヤ人が、ユダヤ人という理由だけで理不尽な扱いを受けていた。街中で群衆を前に、ユダヤ人女性が、「私はユダヤのメス豚です。私は何人もドイツ人の男をベッドへさそいこみ、堕落させました」と書かれた大きな板を首から下げて晒し者にされることなどは、日常茶飯事だったのである。

アドルフ・カウフマンは、強制収容所に送られそうなユダヤ人一家の美少女、エリザ・ゲルトハイマーを日本に亡命させるべく、神戸のアドルフ・カミルに援助を頼み込む。

図らずもスパイ容疑の東洋人逮捕という殊勲を上げたアドルフ・カウフマンは、ヒットラーに気に入られ、ベルグホーフ山荘での総統付き秘書見習いに抜擢される。山荘でヒットラーが気を許しているのは、愛人のエヴァ・ブラウンだけと知る。そして、ヒットラーとエヴァの、「わしの体にユダヤ人の血が流れとるなんて・・・!! わ・・・わしは・・・あのうすぎたない害虫のユダヤ人の家系だ」、「お忘れあそばせ・・・閣下・・・」という会話を漏れ聞いてしまう。

日本では、小城とアドルフ・カミルが、小城が参加しているファシズムに反対する秘密グループのリーダーが自宅で首吊り自殺しているのを発見する。ラテン語で書かれた遺書には、「小城君 注意セヨ 弾圧 時ハ近イ・・・君ノ持ツ レイノヒットラー総統出生文書 至急 ラムゼイニ渡セ 平和ノタメ 彼ガ役立テテクレル」とあるではないか。

「『ラムゼイ』という名が、どんなに恐るべき意味を持っているのか、その時の二人はすこしも知らなかったのである」と結ばれている。「ラムゼイ」というコード名には、私に心当たりがある。まさか、あの人物も絡んでくるのだろうか。