新規事業を考え立ち上げることのできる社内起業家(イントラプレナー)に生まれ変わろう・・・【山椒読書論(675)】
『大前研一 デジタル時代の「社内起業家」育成法――サイバーエージェント、寺田倉庫、リクルート、ソニー・・・とがった人材を活かせ』(大前研一編著、プレジデント社)は、いまほど新しい事業を始め易い時代はない、と喝破している。
「同じことを繰り返して、その延長戦上で精度を高め量を拡大していけば企業は成長できた。そんな古き良き時代の『成長の方程式』は、いまではまったく通用しない。デジタルディスラプション(デジタルテクノロジーによる破壊的イノベーション)が当たり前の今日では、大企業といえども新しい事業を生み出し続けないと、あっという間に淘汰されてしまう。そうならないためには、すべての社員が自ら新規事業を考え立ち上げることのできる社内起業家『イントラプレナー』に生まれ変わるしかない」。
「危機が迫っていることがわからず、変化に対応できるスピード感もなく、リスクをとる勇気もない。できることといえば上司の意向を忖度して行動することぐらい。そういう社員に向かって『新しい事業を考えろ』といくら発破をかけても。それは無理に決まっている。イントラプレナーを生み出すには、経営者のコミットメント、新規事業を加速する制度整備、社員に対する教育、この3つが必要なのだ」。
アントレプレナーとイントラプレナーの違いが示されている。「アントレプレナーは、真っ白なキャンパスに自由に絵を描くように、何もないところに自分の好きな会社を定義することができる。ただし、資金や人材もあらかじめ用意されているわけではないので、自分で調達しなければならない。さらに顧客開拓も行わなければならないから、ハードルはかなり高いといえる。一方、イントラプレナーの場合は、アントレプレナーのようにまったく自由というわけにはいかない。通常は会社のビジョンや戦略に沿った事業であることを求められるが、その代わりスタートアップの資金は会社が出してくれ、人材も全員もしくは一部を会社から連れてくることができる。それゆえ、同じように新規事業を始めるにも、イントラプレナーのほうがはるかにハードルが低いといえる」。
興味深いのは、リクルートとSo-net(ソネット)の例である。
「(リクルート)創業者の江副浩正氏が経営者として秀逸だったのは、当初定年を32歳と定めたことだ。入社したら10年で会社を辞めなければならないのである。ただし、その際は1000万円の退職金が支給される。これを元手に自分で事業を起こせというわけだ。いまはもう少し延びて38歳定年制となったが、それでも普通の会社と比べたら異例の早さである。15年後には退職して、自分で起業するのがデフォルトとなっているリクルートだと、社員は誰にいわれなくても入社1年目から自発的に、将来自立して経営者になるための勉強を始める。そうしないと間に合わないからみな必死なのだ」。
「So-netから依頼を受けたマッキンゼーは、3つの新規事業を提案し、そのうちの2つは提案者であるマッキンゼーとSo-netで新会社をつくって行うことにした。それが、現在のディー・エヌ・エー(DeNA)とエムスリー(M3)だ。創業者は元マッキンゼーの南場智子氏と、同じく谷村格氏。南場氏も谷村氏も、立ち上げ時にはともにSo-netから株式の25%をもたせてもらっている。So-netには新規事業を引き受けられる人材がいなかったが、母乳(育てるノウハウ)を与えるシステムがあったから、外部から連れてくることができたのだ」。