中島みゆきの歌は、本質に鋭く切り込んだ詩と、愁いを含んだ投げ遣りな歌唱という二律背反で成り立っている・・・【山椒読書論(713)】
【読書クラブ 本好きですか? 2022年6月23日号】
山椒読書論(713)
中島みゆきが好きで、その歌を42年間聴き続けているが、彼女が詩集を出していることは知らなかった。
『中島みゆき詩集』(中島みゆき著、角川春樹事務所)を手にして、やはり、中島みゆきは言葉の魔術師だということを再認識した。
「嘘をつきなさい ものを盗りなさい 悪人になり 傷をつけなさい 春を売りなさい 悪人になり 救いなど待つよりも 罪は軽い 愛よりも夢よりも 人恋しさに誘われて 愛さえも夢さえも 粉々になるよ」。
「今日もだれか 哀れな男が 坂をころげ落ちる あたしは すぐ迎えにでかける 花束を抱いて おまえがこんな やさしくすると いつまでたっても 帰れない 遠いふるさとは おちぶれた男の名を 呼んでなどいないのが ここからは見える」。
「酒とくすりで 体はズタズタ 忘れたいことが 多すぎる 別れを告げて来た中にゃ いい奴だって 居たからね」。
「あきらめました あなたのことは もう 電話も かけない あなたの側に 誰がいても うらやむだけ かなしい かもめはかもめ 孔雀や鳩や ましてや 女には なれない あなたの望む 素直な女には はじめから なれない 青空を 渡るよりも 見たい夢は あるけれど かもめはかもめ ひとりで空を ゆくのがお似合い」。
「化粧なんて どうでもいいと思ってきたけれど せめて 今夜だけでも きれいになりたい 今夜 あたしは あんたに 逢いに ゆくから 最後の最後に 逢いにゆくから」。
本書のおかげで、中島みゆきの歌は、本質に鋭く切り込んだ詩と、愁いを含んだ投げ遣りな歌唱という二律背反で成り立っていることが、はっきり分かった。