榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

「中国脅威論」を再考するための本・・・【情熱的読書人間のないしょ話(147)】

【amazon 『中国グローバル化の深層』 カスタマーレビュー 2015年8月18日】 情熱的読書人間のないしょ話(147)

散策中に、大輪のアメリカフヨウに出会いました。その少し先では、たくさんのフヨウが咲いています。アメリカフヨウは妖艶な美女、フヨウは清楚な佳人という趣です。

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閑話休題、昨今囁かれている「中国脅威論」を考える材料として、『中国グロ―バル化の深層――「未完の大国」が世界を変える』(デイビッド・シャンボー著、加藤祐子訳、朝日選書)を読んでみました。

本書では、中国のグローバル化が、外交、政治、経済、文化、安全保障の各分野で考察されていますが、私の一番の関心事は安全保障です。

「世界の安全保障における中国のプレゼンスはこれまでのところ、『伝統的な』大国の振舞い方、つまり同盟関係をいくつも結び、基地を獲得し、部隊を海外派遣し、兵力の海外展開能力を築き、海軍を世界中に派遣し、他者を支配し、あるいは紛争に直接もしくは間接的に関わり戦うという行動をとるようにはなっていない。同時に中国は過去20年の間に着実に軍事力を向上させ拡大してきたし、測り方によっては現時点で世界第2位の軍事力を有しているといえる。軍事力を伸ばしてはいるものの、中華人民共和国は今のところ、軍事力の配備を主権範囲内とアジア沿岸部、それ以外の地域では国際平和維持活動に限定している。つまり中国の軍事力はまだ世界進出していない。もちろんアジア地域では重要な軍事大国で戦略的なアクターだし、以前より強力な戦略的姿勢はアジア太平洋地域の勢力均衡に影響を与えている。それでも中国は到底、世界規模の軍事大国や戦略的アクターとはいえない」。この指摘は、私にとって新鮮でした。

「中国は宇宙分野のほかに、サイバー分野でも世界的な影響力を持つ。中国は地球上のどこでも攻撃できるのだ。ここ数年はかなりの頻度で世界各地にサイバー攻撃を仕掛けているし、その頻度は年々増えている。・・・中国のサイバー活動にはさまざまな種類がある。他国の軍事・情報・政府・インフラ・商業インフラを対象にした攻撃的な情報戦もあるし、中国の軍や政府のコンピューター・システムや、国家電網(中国の送電網の大部分を運営する国有送電会社)など必須インフラを守るための防御的情報戦もある。外国企業のコンピューター・システムに侵入し、技術などの企業秘密を盗む企業スパイ活動もある。外国の根幹的なコンピューター・システムを破壊しないまま侵入するハッキングや『統合ネットワーク電子戦』、民間企業のコンピューターへの侵入、個人のコンピューターや銀行口座への侵入も行われる。中国のサイバー作戦はこのすべてにおいて活発に活動している。中国は実際、今日の世界で最も攻撃的なサイバー国家だと考えられている。・・・中国発のハッキングや諜報活動のすべてが人民解放軍によるものではないが、一部はそうだ。人民解放軍総参謀部第三部や第四部がその中心にいる。人民解放軍がつくった『南昊科技公司』などの『サイバー民兵組織』は高度な技術で攻撃的なサイバー活動を展開する。国家安全部などの情報機関も関与している」。陸・海・空の軍事力や宇宙での能力だけでなく、サイバー戦にも注意を向ける必要がありますね。

著者の結論は明快です。「さまざまな側面から、私は中国は未完の大国だと結論する。個々の分野でも総合的にも、アメリカに遠く及ばない。そのため中国はオーストラリアやブラジル、イギリス、フランス、インド、日本、ロシアのような『ミドル・パワー』もしくは地域大国だと考えたほうがよいのかもしれない。私はさらに、中国は要するに、きわめて狭量で自己中心的で現実的な国家で、国益と力の最大化のみを追求しているという結論にも達した。グローバル・ガバナンスや行動の世界的規範の徹底にほとんど関心がない(自国にとってきわめて重要な内政不干渉の原則は除く)。経済政策は重商主義的で、外交は受け身的だ。中国はさらに戦略上も孤立しており、同盟国がない。世界中のほとんどの国との間に相互不信があり、関係がぎくしゃくしている。同時に、中国は定期的に、状況に不満で、苛立ち、被害者意識を持ち、怒っている国の顔になる。過去に自分たちにひどいことをした国、あるいは現在揉めている国に対して、償いを要求する国になるのだ。歴史的な遺恨と報復的な愛国心は中国に重くのしかかり、その重い負担は中国のためにならない。これまでもそうだったし、今後も同様だ。さらに中国共産党が率いる国内政治体制は不安定で、自らの持続性について強い不安を抱いている。政策課題に柔軟に対応した数年間を経て、一党独裁国家は再び衰退しはじめている。国内社会の不安定要因は大量にあり、中国共産党支配を多方面から脅かす。中国はしばしば対外的に強硬で好戦的な態度を見せるが、それは国内の不安要素や愛国主義の台頭、歴史上の経緯などに根ざすものだ。こうしたさまざまな理由から、中国はまだ世界的リーダーになる用意ができていないというのが、私の主張だ」。

「ジョセフ・ナイが指摘したように、『私たちが中国を過大評価し、中国が自国を過大評価することが何より危険だ。中国の力がアメリカに近づいているなどあり得ない。中国を実際より巨大な国として見てしまうと、アメリカには恐怖が生まれ、中国には思い上がりが生まれる。それこそ私たちが直面する最大の危険だ』。こう言うナイ教授に私はまったく同感だ」。

では、中国の台頭にどう対応すればいいのでしょうか。「中国の台頭に対応するための『大戦略』の主題はあくまでも統合だ」。中国を無理やり封じ込めようとするのではなく、仲間として取り込んでしまえというのです。