榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

初老の男が、連れの若い美女を延々とヴィデオ・カメラで撮り続ける理由・・・【情熱的読書人間のないしょ話(421)】

【amazon 『女が眠る時』 カスタマーレビュー 2016年6月17日】 情熱的読書人間のないしょ話(421)

我が家では、ナツツバキ、クチナシが盛りを迎えています。アメリカノウゼンカズラも橙色の花を咲かせ始めました。黄色いユリ、赤いユリも咲いています。アジサイも頑張っています。

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閑話休題、『女が眠る時』(ハビエル・マリアス著、砂田麻美・木藤幸江・杉原麻美訳、パルコ)は、一風変わった愛の物語です。

連日、一日中のべつ幕なしに、連れの若い美女をヴィデオ・カメラで撮り続けている不思議な初老の男性・ヴィエナと「僕」との会話。「『毎日撮影しているのは彼女が死んでしまうからなんだ。だから、最期の日、最期になるだろう日の記録をとっておきたい。しっかりと覚えておけるように。編集版のビデオとあわせて、死んだあとにも好きなだけ繰り返し見られるように。何もかも絶対に覚えておきたいんだ』。『ご病気なんですか?』と、もう一度聞く。『病気じゃあない』。今度は考える間もなく彼が言った。『少なくとも私の知るかぎりは。でもいつかは死ぬんだ、確実に。周知のとおり。人はみんな死ぬが、彼女の姿は保存しておきたい。誰の人生でも最期の日は特別だから』」。

「『私の愛情は過剰なほど望む。それこそが愛なんだ。待たざるをえなかった時の長さだって過剰だ。いまだって待ってはいるが、待つことの性質は逆転してしまった。手に入れたくて待っていたものが、いまや終わることだけを願っている、贈り物が届くのを待っていたのに、いまやなくなってしまえと願っている。贈り物が届くのを待っていたのに、いまやなくなってしまえと願っている。成長を待っていたのに、いまは朽ち果てるのを願っている。私だけでなく、イネスもそうなってしまった。それこそ、私が受け入れがたいことなんだ。仮定の話ばかりしてやがると思うだろうな。前もって予測できることばかりじゃない。前に自分で言ったように、死ぬ順番だってわかりゃしないじゃないかって。ふたり一緒に年老いていく人生だってありうる。しかしそうだとして、これから永の年月を共にするのだとしても、この愛のおかげで同じ結論に行きつくんだ。それともこの愛が息絶えるのを私が許せると思うかい? イネスが年老いてしおれていくとしたら、唯一存在する解決法に頼らざるをえないと思わないか?』」。

「『つまり、時間はなんの解決にもならない。この愛が消え失せるのを見るよりは、彼女を殺したほうがいい。彼女に置いていかれるくらいなら、この愛が対象を失って長らえるくらいなら、彼女を殺したほうがいい。できるだけ引き延ばしはするが、時間の問題だ。だから万一のために、毎日イネスを撮影しているわけなのさ』」。

ここまで極端な愛はそうそうないでしょうが、この作品を通して、愛というものを突き詰めて考えてみるのも意味があるのではないでしょうか。

本書には、この短篇小説を翻案した日本映画のノヴェライゼーションも収録されていますが、原作のイメージが壊されるのが怖いので、ノヴェライゼーション部分も映画も見ないことにしています。