榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

無化学・無農薬野菜に人生を懸ける、地方の若者たちの奮闘物語・・・【情熱的読書人間のないしょ話(481)】

【amazon 『夢みる野菜』 カスタマーレビュー 2016年8月11日】 情熱的読書人間のないしょ話(481)

昼下がりの静まり返った公園では、セミたちの鳴き声は、岩ではなく、緑に染み入っています。因みに、本日の歩数は10,652でした。

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閑話休題、私は、「地方」、「若者」、「農業」が絡む話には滅法弱いのです。『夢みる野菜――能登といわき遠野の物語』(細井勝著、論創社)には、この3つ全てが揃っています。

石川県・能登半島の先端に、都会から隔絶した珠洲(すず)市があります。「同世代の若者たちが脊を向けて遠ざかろうとするこの珠洲市に、小さな農業生産法人を立ち上げ、従来の慣行農法とは異なる無化学・無農薬という生産方法で野菜を栽培し、ブランド化を目指そうと動き出した若い群像がいる。彼らが目指すのは、手間暇のかかる無化学・無農薬農業を可能な限り大規模に展開し、能登半島の奥能登と呼ばれる先端エリアを付加価値の高い野菜の供給地に育てあげることであるという」。

このベジュール合同会社という、社員が10人に満たない農業生産法人は、足袋抜豪(たびぬき・ごう)という若者に率いられています。

「ベジュールが栽培する野菜のうち、ニンジン、タマネギ、カボチャに大口の買い手が現れ、足袋抜たちの事業はいま、経営基盤の礎が固まるかどうかの岐路にさしかかっている」。大口の買い手とは、福島県いわき市で農産物の加工業に乗り出した現地の農業生産法人、株式会社いわき遠野らぱんという、社員12名の会社です。平子佳廣(たいらこ・よしひろ)が同社を牽引しています。

ベジュールと、いわき遠野らぱんの将来が約束されているわけではありません。ですから、奥能登再生の旗印を掲げる足袋抜や、東電福島原発事故の風評被害に苦しむ遠野を鼓舞し続ける平子に、小売業界、流通業界などの関心と共感が集まり始めていると知り、ホッとしました。

単純な成功物語ではなく、限界集落寸前という地方の片隅で、それぞれの夢に向かって成功を手にすべく奮闘している過程の物語であることが、本書の特色となっています。