榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

ゴキブリが新鮮なまま、ハチが産み付けた幼虫にむさぼり食われていく・・・【情熱的読書人間のないしょ話(792)】

【amazon 『毒々生物の奇妙な進化』 カスタマーレビュー 2017年6月23日】 情熱的読書人間のないしょ話(792)

東京・文京の小石川後楽園では、時間がゆったりと流れています。因みに、本日の歩数は21,374でした。

閑話休題、『毒々生物の奇妙な進化』(クリスィー・ウィルコックス著、垂水雄二訳、文藝春秋)では、多くの毒液動物が取り上げられています。

いずれの毒液動物もそれぞれ興味深いのですが、とりわけ身の毛がよだつのは、「恐怖のマインド・コントロール」の章の主人公・エメラルドゴキブリバチです。「エメラルドゴキブリバチは、獲物の心を操り、ゾンビ化させる特殊な毒をもっている。毒を送り込まれたゴキブリは、幼虫の餌として進んで自らを差し出すのだ」。

「エメラルドゴキブリバチは、自分の子どもの餌にするゴキブリに対して、その心をコントロールして、怖れの感覚や運命から逃れようとする意思を奪い取ってしまうのである。健全なゴキブリを心のないゾンビに変えるのは、なんらかの治療不能なウイルスではない――毒液である。とはいえ、それはただの毒液ではない。麻薬のように作用する、ゴキブリの脳を標的とした特殊な毒液である」。

エメラルドゴキブリバチは、狙ったゴキブリの脳内に直接、毒液を注入するのです。「相手の数分の一の大きさしかないこの寄生バチは、頭上から攻撃を開始し、急降下してゴキブリを口で掴むと、『毒針』(産卵管が変形したもの)で胸部にある第一歩脚のあいだに狙いをつける。この素早い一撃には、ほんの2、3秒しかかからず、毒液化合物は迅速に作用して、ゴキブリを一時的に麻痺させる。そのおかげで、ゴキブリバチは2回目の攻撃をより正確におこなうことができる。その長い毒針で、心を操る毒液を2箇所の神経節(昆虫の脳に相当する部分)を狙って送り込むのだ」。

「ゴキブリの運動能力は無傷で残るのだが、彼らはどうしてもそれを使いたがらない。毒液は、彼らの感覚を失わせはしない――そのかわりに、感覚に対する脳の反応の仕方を変えるのである。毒液は特定のニューロンを弱めて、活性と反応性を低下させるのだ。それによって、ゴキブリは突然、恐怖心を失うことになり、唯々諾々と葬られ、生きたまま食べられることになる」。

「ゴキブリが静かになって動かなくなると、ゴキブリバチはその触角を噛みきり、甘くて栄養のある血液を飲むことで、エネルギーを補充することができる。それから、騎手が手綱を扱うように、残った触角を使って獲物を墓場まで導いていく。ひとたび巣穴の中に入ると、ゴキブリの体に卵を一つ産みつけ、なかに自分の子どもを残して入り口を塞いでしまう。そして、まるで心の操作だけではまだ足りないといわんばかりに、ゴキブリバチの毒液はとどめの一撃を加える。ゴキブリが避けることのできない悲運を待ち受けているあいだ、その代謝速度を低下させるのだ――確実に長生きして。新鮮なままむさぼり食われることができるように」。

「ゴキブリバチの幼虫は卵から孵化したとき、確実に餌を食べられるようになっている。そして、まもなく羽化した新しいゴキブリバチが巣穴から姿を現し、ゴキブリの死体をあとに残して飛び去っていくのだ」。

本書で、エメラルドゴキブリバチにいいようにされっぱなしのゴキブリの事例を知ったら、普段は憎たらしいゴキブリがかわいそうに思われてきました。