榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

新しい動物行動学、そして、オスの繁殖戦略、メスの繁殖戦略・・・【情熱的読書人間のないしょ話(996)】

【amazon 『犬とぼくの微妙な関係』カスタマーレビュー 2018年1月13日】 情熱的読書人間のないしょ話(996)

栃木・足利の「あしかがフラワーパーク」は、400万球のイルミネーションがきらめくファンタスティック・ワールドでした。因みに、本日の歩数は11,701でした。

閑話休題、『犬とぼくの微妙な関係』(日高敏隆著、青土社)は、日高敏隆の動物を巡るエッセイ集です。

本書に収められている「自然界の法と掟」を、とりわけ興味深く読みました。

「『汝、殺すなかれ』という(モーゼの)第五の戒めに背いて同類殺しばかりしている種は、自然淘汰によってやがて消滅してしまうだろう。だから、互いに殺しあうなかれ、という掟を守るような種だけが残ってきたのだ、とローレンツもヴィックラーも説明している。これは1960年代のことである。少なくともその時代までは、このような考えかたは妥当なものと思われていた。けれどそのうちに、この考えかたを疑わせるような現象が次々とみつかりはじめたのである」。

「研究者たちは困惑した。けれどそのような子殺しや、それに類した例が次々とみつかってくると、もはや動物たちはモーゼの戒めに背いていると考えざるを得なくなった。そして同時に、動物たちは種族のことなど考えていないのではないか、と思わざるを得なくなった。ここから動物行動学の新しい時代がはじまったのである」。

「動物たちは、『種族』のことなど考えていない。『考えて』いるのは、自分の血のつながった、自分自身の子孫を残したいということだけなのだ。そこで研究者たちは、もう一度ダーウィンに立ち返ってみた。ダーウィンはその著『種の起源』でこういうことをいっている――『よりよく適応した個体はより多く子孫を残すであろう。するとそのような特徴をもった個体が増えていくので、種はその方向に変化していくであろう。そしていつか、前の種よりも、よりよく適応した新しい種が生じてくるであろう。このようにして進化がおこるのである』。このダーウィンのことばを裏返せば、より多く自分の子孫を残し得た個体は、それだけよく適応していた、ということになる。そこで、動物のある個体が、自分の血のつながった、自分自身の子孫をどれだけたくさん後代に残し得たかをもって、その個体の『適応度』と呼ぶ、という新しい概念が作られた。そしてこれが、新しい動物行動学の出発点となったのである」。

「この概念に立っていうならば、動物たちは、『種族維持』のことなど考えておらず、望んでいるのは自分自身の『適応度増大』である。そして、自分の適応度をできるだけ増大し得たものの子孫が残っていき、それによって『種族』も維持されていく。つまり、新しい動物行動学にとっては、種族の維持は目標ではなく、『結果』なのである」。

「自分の子孫の数で勝負している動物たちは、『繁殖戦略』をたてる。ところがこの繁殖戦略が、オスとメスではまったくちがうのである。オスは自分で子どもを産めないから、オスが自分の適応度を増大してこのシェア争いに勝つためには、できるだけたくさんのメスに自分の子どもを産んでもらうというのが基本的な戦略になる。だから、どんな動物でも、オスはメスに強烈な関心をもっており、必死になってメスを探し、近寄っていく」。ヒトの男も、全く同じですね。

「一方、メスのほうも、オスがいなくては子どもは産めないから、オスは必要なのであるけれども、一回に産める子どもの数というのはきまっている。たくさんのオスとかかわったからといって、それだけたくさんの子どもが産めるわけではない。けれど、自分の産んだ子は、絶対に自分の子どもである。その点ではオスとまったくちがう。オスは自分のメスが産んだ子が、自分の子であるかどうかわからない。人間でも人間以外の動物でも、このことからいろいろな問題が発生してくるのであるが、とにかくメスにしてみれば、自分の子どもをちゃんと育てることがシェア争いに勝つ方法である。そこでメスは、言い寄ってくるあまたのオスの中から、『いいオス』を一匹選ぼうとする。いいオスとは、基本的には丈夫なオスである。メスが強いオスやきれいなオスを好むのは、要するにそういうのは丈夫なオスである可能性が高いからである。丈夫なオスとの間にできた子は、よく育ってたくさん孫を産んでくれるだろう。そうすればメスの適応度は高まり、シェア争いにも勝てるわけだ。そこでメスによるオス選び、いわゆるフィーメール・チョイスが、メスの繁殖戦略の基本となる」。他人事とは思えません。

ローレンツの動物行動学から新しい動物行動学への流れを理解するのに恰好な一冊です。