榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

大学中退の24歳シングルマザーの漁業新規事業立ち上げ奮闘記・・・【情熱的読書人間のないしょ話(946)】

【amazon 『荒くれ漁師をたばねる力』 カスタマーレビュー 2017年11月20日】 情熱的読書人間のないしょ話(946)

あちこちでサザンカの花を見かける季節になりました。シオンが薄紫色の花をたくさん咲かせています。さまざまな色合いのダリアが咲き競っています。キミノセンリョウが黄色い実を付けています。オタフクナンテンが紅葉しています。因みに、本日の歩数は11,856でした。

閑話休題、『荒くれ漁師をたばねる力――ド素人だった24歳の専業主婦が業界に革命を起こした話』(坪内知佳著、朝日新聞出版)は、ユニークな新規事業立ち上げ奮闘記です。

「大学を中退し萩で結婚。専業主婦となった。そして離婚を経て4年後、私はシングルマザーになっていた。家賃2万3000円、冬には凍って水が出なくなるようなこの狭い部屋で、幼い子どもと2人きりの暮らしだった。傍から見たら、こんな私は絶望的な状況に見えるかもしれない。しかし、このときの私は、これから切り開いていく未来への野望で満ち満ちていた。私が夢中になってパソコンで作成していたのは『総合化事業計画書』と銘打った一つの書類である。当時24歳だった私は、沖に浮かぶ小さな島の漁師たちとともに、大きな革命を起こそうとしていた」。

「口べたで気性が荒いと思われがちな漁師たちだが、実は、根は優しくまっすぐな心の持ち主だ。彼らとは数えきれないほど喧嘩をし、ときにはとっくみ合いもした。けれども最終的に仲直りできる理由はただ一つ。私と彼らが、『ある夢』を共有しているからだ。島の未来のために、日本の水産業のために、地方創生のために、どんな困難があっても立ち向かってみせる。その純粋な思いが私と漁師たちを一つにしている。これは、日本のすみっこで必死に生きる漁師たちと、彼らと偶然めぐりあって事業を手伝うことになった私の挑戦の物語である」。

著者は、ある船団の漁労長から協力を依頼されます。「『本当に何かやらないと、これからわしら、漁業だけじゃ食えんようになると思うんじゃ。あんた、ものを考えたり、パソコン得意やろ。俺らの未来を考える仕事、手伝ってくれんか?』。・・・彼らは日に日に大きくなっていく不安に、押しつぶされそうだったのである」。

「『あんたがいてくれたおかげで、難しい書類も作れて、認定を取れたんじゃ』。漁師たちは尊敬のまなざしで私を見つめている。私と漁師たちの間も良好だ。男所帯の中に咲いた一輪の花のように、私はちやほやもてはやされていたのである。まだこの頃までは」。

「(漁師たちと喧嘩をしても)何時間でも話し合って、言いたいことを言い合えば、最後は仲直り。それは喧嘩であると同時に、私たち全員が同じ方向を向く大切な磨き合いのプロセスだった」。

「こうしてさんざん喧嘩をしながらも、『萩大島船団丸』の6次化の事業は少しずつ軌道に乗り始めていった。自家出荷を開始して早1年が経とうとしていた」。

「『萩大島船団丸』の事業を続けていくためには、若い人材が必要だった。私は後継者を確保するため、全国からIターン募集を始めることにした。その結果、毎年1人ずつ、多いときで3人の新人が入ってきてくれた。『萩大島船団丸』はいま総勢18人の漁師のうち、7人がよそからやってきた若者である。ほかの船団と比べると、『よそもの率』と『若者率』が飛び抜けて高いのがうちの船団の特徴になっていった」。

「事業が安定し始めた2014年、私は『萩大島船団丸』に加え、さらなる事業拡大のために複数の事業部を増やし、『株式会社GHIBLI』を設立した。国の認定事業者でもある『萩大島船団丸』にはいろいろな制約があり、漁業を離れた活動が自由にできない。そこで、もっとさまざまな可能性に挑戦できるように、別ブランド(事業部)を作りたいと思ったのだ。漁業だけではいつか限界を迎える日がくるかもしれない。そのために、家業的だった漁業を企業に進化させたい――。私はGHIBLIに鮮魚販売部門、旅行部門、環境部門、コンサルティング部門の4つの事業部をもうけ、未来に向けた布石を打つことにした」。

「いま、海はギリギリの状況だ。しかし、どんなに魚が獲れなくなっても、日本に刺身文化は必ず残ると固く信じている。たとえ漁獲量がいまの10分の1になったとしても、鮮魚BOXを10倍の値段で私は売る。100分の1になったら、100倍の値段で売ればいい。その値段で買ってくれるお客さんを私は必ず探してくる。そのために営業の私がいるのだし、そのために自分たちで価格が決められる自家出荷に踏み切ったのだ。これが旧来のように漁協や市場まかせだと、相手の言い値で引き取ってもらうしかない。利幅が薄くても、せいぜい仲買に文句を言うくらいだ。でも自分たちで直接魚が販売できれば、必要としてくれて一番高く買ってくれたり、大切に無駄なく使ってくれたりするところに、自由に魚を持っていくことができる。どんなに魚が減っても、刺身を食べたい人は必ずいる。獲れた魚が売れないことはない。漁師たちが獲った魚を、一番高く、納得できる相手に売る。そのために、高付加価値化に取り組む。その仕組みを萩大島で確立し、全国の浜に広げたいのだ」。

私も長く企業人として過ごしてきましたが、こういう人物と一緒に仕事をしたいと強く思いました。