榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

カメムシは、母から子へ受け渡される共生細菌がいないと生きていけない・・・【情熱的読書人間のないしょ話(975)】

【amazon 『カメムシの母が子に伝える共生細菌』 カスタマーレビュー 2017年12月23日】 情熱的読書人間のないしょ話(975)

東京・文京の、静寂に包まれた小石川後楽園は野鳥の天国です。1mという近さからシロハラをカメラに収めることができました。キンクロハジロの雌たちが潜水し、アメリカザリガニを捕食するシーンを目撃することができました。キンクロハジロの雌とスズガモの雌は見分け方が難しいのですが、野鳥に造詣が深いFさんから、キンクロハジロとの回答が得られました。因みに、本日の歩数は14,302でした。

閑話休題、『カメムシの母が子に伝える共生細菌――必須相利共生の多様性と進化』(細川貴弘著、辻和希コーディネーター、共立出版)には、唸らざるを得ませんでした。

「カメムシの産卵と孵化においては、新しい生命の誕生と同時に、『母から子への共生細菌の受け渡し』という、もう一つのイベントが繰り広げられている。これがうまくいかないと新しい生命の誕生もなかったことになってしまうという、カメムシにとってはとてつもなく重要なイベントである。なぜそれほどまでに重要なのかというと、カメムシは共生細菌の力に強く依存して生きており、共生細菌がいないと生きていけないからである。つまりカメムシでは、どんなに元気な子が生まれても、母親から子への共生細菌の受け渡しがうまくいかないとその子は成長できず死んでしまう、すなわち新しい生命の誕生はなかったことになってしまうのだ」。

「カメムシは自分たちの生存になくてはならない共生細菌を母から子へと代々受け継いでいるのだが、一部のカメムシでは受け継がれている共生細菌が過去のある時点でまったく別の細菌にすり替わっているのである。私はこの『共生細菌のすり替わり』がどのように起きたのかが知りたくなり、カメムシの共生細菌の研究にさらにのめり込むようなった」。

著者は、「共生」という言葉を、このように定義しています。「『昆虫の共生細菌』とは昆虫に利益を与える細菌、害を与える細菌、利益も害も与えない細菌のすべてを包含していると考えていただきたい。この3つを特に区別する必要があるときは、それぞれ相利共生細菌、寄生的共生細菌、日和見共生細菌と表記するようにした」。

マルカメムシ類に関する研究成果は、このように記されています。「(マルカメムシ類の)餌に含まれる栄養分は必須アミノ酸が不足していると考えられる。したがって体内に共生細菌を保持し、共生細菌に不足栄養分を合成してもらって生活していることが予想される」。

母から子への共生細菌の受け渡しは、カプセルによって行われているというのだから、驚きます。「マルカメムシ類のメスは、腸内に保持する共生細菌の一部を黒い粒(カプセル)に封入して卵のそばに産みつけているのである」。「卵から生まれた幼虫の行動はとても特徴的である。幼虫は卵殻から出てきたのち数分間はじっとしているのだが、その後、突如として慌ただしく歩きだし、口吻をしきりに動かして卵殻の隙間に抜き差しする。そのうちに(おそらく偶然に)口吻の先が黒い粒に触れると、慌ただしく動いていた幼虫はその隙間にぴたりと動きを止め、口吻を黒い粒に差し込んだ状態で静止する。数十分間も続く静止を経て、幼虫は黒い粒から口吻を引き抜き、その後はあたかも安心したかのように卵塊のそばでじっとしてしばらく動かなくなる」。幼虫はカプセルの中の共生細菌の細胞を口吻で吸い取っていたのです。

この他、クヌギカメムシ類、ベニツチカメムシ、チャバネアオカメムシ、ホソヘリカメムシ、ヒメナガカメムシ類、トコジラミ類――と共生細菌との関係も紹介されていて、興味が尽きません。

著者のカメムシと共生細菌に対する熱意がびしびしと伝わってきて、昆虫好きの知的好奇心が激しく掻き立てられる一冊です。