榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

ラファエロの<アテネの学堂>に描かれている人物たちは誰々か・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1043)】

【amazon 『ラファエロ』 カスタマーレビュー 2018年3月2日】 情熱的読書人間のないしょ話(1043)

散策中に、モズを見つけました。ツバキが咲いています。モクレンが蕾を付けています。キンカンの実が鈴生りになっています。ウメも頑張っています。今宵は満月です。因みに、本日の歩数は10,751でした。

閑話休題、『ラファエロ――作品と時代を読む』(越川倫明・松浦弘明・甲斐教行・深田麻里亜著、河出書房新社)は、ラファエロ・サンティが生きた時代と作品群を4名の研究者が手分けして分析した著作です。

「ラファエロはこの町(ウルビーノ)に1483年に生まれ、1520年にローマで没した。年齢的には、レオナルド・ダ・ヴィンチよりも31、ミケランジェロよりも8つ年下である。ルネサンスの三大巨匠のうちのいわば末っ子であるが、西洋美術史の上での存在感では年長の二人に決してひけをとらない。ところがこれまで、日本ではレオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロに比べて研究者も少なく、ラファエロの作品を詳しく論じた書物も多くはなかった。そこで本書は、画家ラファエロの作品とその時代について、少し深く読みこんでみよう、という意図で編まれた」。

「<いかに熱心に励んでも、いくつかの困難な点でレオナルドを凌駕することはできなかったのである。多くの人々が、ラファエロは甘美さや生来の流暢さの点でレオナルド以上だと考えているのは確かだが、それでもなお、絵画の構想の偉大さにおけるある種の根本的な卓越性の点で、彼は決してレオナルドを凌ぐことはできなかった>。・・・ラファエロはいわば二番手の芸術家であり、レオナルドやミケランジェロの最も先鋭な表現上の革新の上をいくことはできなかったと、ヴァザーリははっきり書いているわけである。しかも彼は、そのことをラファエロ自身がよく自覚していた、とも述べている。人体デッサンの力ではミケランジェロにかなわない。だからそれ以外の分野で画家としての総合力で勝負しよう――そうラファエロは考えた。このヴァザーリの評言は、決してラファエロをおとしめる意図で書かれたわけではなく、むしろミケランジェロ以後の芸術家たちがとるべき態度の模範として提示しているところがあり、本質的には画家としてのオールラウンドな能力を評価している」。

個人的には、以前、ヴァチカン市国のヴァチカン宮殿で目の当たりにした<アテネの学堂>を縦横無尽に論じた章に、とりわけ惹き付けられました。

「(ヴァチカン宮殿の)『署名の間』の装飾は西洋美術史上きわめて重要な位置を占めており、特に<アテネの学堂>はレオナルド・ダ・ヴィンチの<最後の晩餐>とともにイタリア・ルネサンスを代表する壁画として広く知られている。個々の登場人物をいかにその内面性まで描写することが可能か、あるいはそれらを画中にどのように配置すれば人物間の緊密な関係性を創出することができるか、といった課題をラファエロはフィレンツェ滞在中に主にレオナルドから学び、その研究成果が見事に結実した作品が<アテネの学堂>なのである。そればかりでなく、ジョットに始まり、マザッチョ、レオナルドと200年以上にわたって継続的に探究されてきたイリュージョニスティックな表現は、まさに<アテネの学堂>で一つの頂点に達するといっても過言ではない。だが、これほど重要で著名な作品であるにもかかわらず、そこに描かれている主題はいまだ議論の対象となっている」。

「この壁画でラファエロは、さまざまな時代のギリシアの名だたる学者たちを登場させ、何らかの概念を寓意的に表現しようとしたのである」。

「ラファエロは荘厳な学堂の前方に4段の階段を設け設け、登場人物を段上の3つのグループと段下の4つのグループに分けている。前者は中央をA、左をB、右をCとし、後者は左からD、E、F、Gとする。各グループに属する人数はA(14人)、B(9人)、C(6人)、D(4人)、E(7人)、F(5人)、G(4人)で、各グループの橋渡しの役割を果たしているどこにも属さない人物が9人いる。それぞれのグループには核となる人物がおり、主題の内容を把握するためには、この中心人物たちの同定こそが鍵となる」。

「各グループの中心となる人物像を見てくると、パッサヴァンの指摘した通り、<アテネの学堂>にはギリシア思想史の展開が表されているように見える。つまり左下のオルフェウス教の祭司(=Dグループ)とピュタゴラス(=Eグループ)、およびヘラクレイトス(=グループ外)から始まり、段上のプロタゴラス、ソクラテス(=Bグループ)、プラトン、アリストテレス(=Aグループ)、さらにテオプラストス(=Cグループ)と連なり、最後に右下のユークリッド(=Fグループ)、ヒッパルコス、プトレマイオス(=Gグループ)で完結する。これらの著名な学者たちは紀元前7世紀頃から紀元後2世紀へと見事に年代順に左から右へと配置されているのである」。

因みに、オルフェウス教、ヘラクレイトス、プロタゴラス、ソクラテス、プラトン、アリストテレス、テオプラストスは哲学、ピュタゴラスは算術と音楽、ユークリッドは幾何学、ヒッパルコス、プトレマイオスは天文学を代表しているのです。

プラトンのモデルとしてレオナルド・ダ・ヴィンチ、ヘラクレイトスのモデルとしてミケランジェロ、ユークリッドのモデルとしてブラマンテを登場させているだけでなく、ラファエロ自身をもグループGの中にちゃっかり描き込んでいます。

本書のおかげで、今後は<アテネの学堂>を初めとするラファエロの作品群を、より深く味わうことができるでしょう。