絶望したとき、あなたに寄り添ってくれる本とは・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1343)】
野鳥観察会で、カイツブリ(右)とカルガモ、バン、アオサギの成鳥、アオサギの若鳥、コサギ、ダイサギをカメラに収めました。池が落ち葉で覆われています。
閑話休題、『絶望読書』(頭木弘樹著、河出文庫)では、絶望したとき、あなたに寄り添ってくれる本、映画、テレビドラマなどが挙げられています。
すぐには立ち上がれない「絶望の期間」には、フランツ・カフカの日記や手紙が薦められています。「作家の日記や手紙というのは、普通、その作家の小説を読み尽くして、それでも満足せず、さらにその作家について知りたいという、大ファンだけが読むものでしょう。そして、通常、日記や手紙は作品ほどには面白くありません。ところが、カフカの場合は例外です。日記や手紙がびっくりするほど面白いのです! そして、小説はまったく読んだことがなくても、日記や手紙から読み始めて大丈夫です」。
「カフカにはとくに不幸なことがあったわけではありません。それどころか、裕福な家庭に生まれ、何不自由なく育ち、大学も出て、役所に勤めて、順調に出世して、恋愛もしますし、親友もいます。亡くなる前は病気をしますが、それまでは健康です。まさに、平穏無事な、ごく普通の平凡な人生です。・・・それでも、絶望しているのです。ごく普通の日常生活の中に、これほど絶望の種があるかと驚くほどに絶望しているのです。・・・カフカは大きなことを言いません。国がとか、政治がとか、そういうことを言いません。親がとか、仕事がとか、恋愛がとか、睡眠がとか、胃がとか、日常的なことばかりです。・・・倒れて起き上がれないような絶望を感じたとき(精神的な意味でも、肉体的な意味でも)、その倒れたままの『絶望の期間』に、ぜひカフカをお読みになってみてください」。カフカと一緒に倒れたままでいようというのです。
苦悩が頭の中をぐるぐる回って、どうにもならない絶望には、フョードル・ドストエフスキーの長篇小説『カラマーゾフの兄弟』、『罪と罰』、『地下室の手記』が役に立つと述べています。
「苦悩しているときに読むと、ドストエフスキーの文章は、不快どころか、じつにしっくりきます。心地良いと言ってもいいほどです。ドストエフスキーは苦悩にとてもよく合います。文章だけのことでなく、ドストエフスキーの小説の登場人物はすべて苦悩しています。主人公だけでなく、あらゆる登場人物が。それも極度に。熱に浮かされるほど。苦悩するAのそばに、苦悩するBがいて、さらに苦悩するCもいて・・・というふうにたくさん出てくる登場人物のすべてが、それぞれに別の苦悩を抱えていて、その複数の苦悩が積み重なって、絡まり合って、共鳴し合って、洞窟での大合唱のようにうねりにうねって響きます」。
「ドストエフスキーは、死刑にされかけたこと以外にも、てんかんの持病にずっと悩まされましたし、恋愛でも苦悩していますし、ギャンブル依存でも苦しんでいますし、自分のことだけでなく、シベリアに流刑になって、監獄で4年を過ごし、その間に、さまざまな受刑者たちの苦悩に接します。まさに苦悩まみれで、これほど苦悩に通じている人はちょっといないでしょう。だからこそ、苦悩している人間にとっては、とても共感できるのです」。ドストエフスキーと一緒に地下室に籠もろうというのです。
正体の分からない絶望に囚われたときには、山田太一のテレビドラマ『岸辺のアルバム』、『ながらえば』、『男たちの旅路』、『ふぞろいの林檎たち』、『想い出づくり』、『それぞれの秋』、『早春スケッチブック』を見ることを勧めています。
「生きるかなしみを感じたときには、ぜひ山田太一ドラマをご覧になってみていただければと思います。ドラマの時代背景もさまざまですし、登場人物の年齢もさまざまですが、普遍的な人間性が描かれているので、誰でも感情移入できるはずです」。山田と一緒に生きる哀しみと向き合おうというのです。