榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

天才たちが栄光から転げ落ちてしまった理由・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1542)】

【amazon 『あの天才がなぜ転落』 カスタマーレビュー 2019年7月8日】 情熱的読書人間のないしょ話(1542)

ムラサキツユクサが紫色の花を咲かせています。テイカカズラの淡黄色の花が芳香を放っています。コノテガシワが淡灰青色の球果を付けています。ムベの実は、まだ緑色です。オカメザサは小さいことからササと名付けられているが、タケに分類されます。因みに、本日の歩数は10,896でした。

閑話休題、『あの天才がなぜ転落――伝説の12人に学ぶ「失敗の本質』(玉手義朗著、日経BP社)では、実在の12人の天才たちの栄光と転落が生々しく描かれています。「頂点に立った次の瞬間、天才たちは奈落の底に突き落とされる。その転落の軌跡は余りに急激で悲劇的でもある。苦境の中でもがき苦しむ天才たち。しかし、懸命の努力が報われることなく、生涯を終えることになってしまったのだ」。

とりわけ印象的なのは、「ジョン・アウグスト・サッター ――湧き出る黄金が農場主に災いを招く」です。

「ドイツからの移民で、様々な困難を乗り越えて、カリフォルニアで大きな農場を持つまでになった。1848年1月24日、すでに大金持ちだったサッターに、さらなる幸運が舞い込んできた。所有する農場の一角に、大量の砂金が発見されたのだ。カリフォルニアのゴールドラッシュが始まった瞬間だった。自分の農場が突如として『黄金郷』になったサッター。『世界一の大金持ち』になっていたはずだったが、その最期は惨めなものだった。見つけたはずの黄金はどこに消えたのか。とてつもない幸運をつかんだはずの男は、なぜ非業の死を遂げることになってしまったのだろう」。

「自分の農場に大量の金が、しかも掘る必要のない、川底をすくえば簡単に採れる砂金だ。すでに大金持ちだったサッターだが、砂金の発見はその何十倍、何百倍もの富を与えるに違いない。そして、これがサッターの人生を一変させる。しかし、なぜか悪い方向にだ」。

「サッターは砂金の発見を隠そうとしたが、瞬く間に噂は広がってしまった。まず、農場で働いていた人々が、一斉に仕事を放棄して砂金を採り始めた。農場の運営は完全にマヒし、飼っていた乳牛は世話されずに死んでいき、農地は手入れがされずに荒れ果てていく。・・・ニューヨーク・ヘラルド紙も『カリフォルニアに黄金教!』と書き立てたことで、全米が大騒ぎになる。年が明けた1849年、一攫千金を狙った人々がカリフォルニアに殺到した。ゴールドラッシュが始まったのだ。・・・彼らは、砂金を採るためにサッターの農場に乱入し、畑を踏み荒らし、乳牛を殺し、穀物倉を破壊して自分たちの家を建てるなど、破壊の限りを尽くした」。

「全てを失ったサッターは、ワシントンの裁判所や連邦議事堂の周辺を毎日のようにさまよい、役人や政治家たちに、自らの正当性と賠償金の支払いを求め続けた。こうした日々は25年間に及んだが、その請求が認められることは遂になかった。1880年6月18日、サッターは連邦議事堂前の階段で息絶えた。77年の人生であった」。

著者は、サッターの失敗の本質を、このように考察しています。「ゴールドラッシュは多くの大金持ちを生んだ。しかし、その大半は砂金を採った人ではなかった。大金持ちの多くが、砂金を採ろうと殺到した人向けのビジネスで成功したのだった」。ショベルや斧、テントといった砂金を掘る人たちの必需品を高値で売ったサム・ブラナン。丈夫で肌触りのよいズボン(デニムと呼ばれるようになる)を売り捲ったリーバイ・ストラウス。砂金を採った人たちのお金を故郷に送り届けるサーヴィスを始めたヘンリー・ウェルズとウィリアム・ファーゴ。砂金を採りに来た人々に食料品や道具を販売して財を成したリーランド・スタンフォード(その後、スタンフォード大学を創立)。彼らは、砂金発見という経営資源に接して、その周辺ビジネスというチャンスを掴むことで成功したのです。一方、サッターは砂金という経営資源に固執し続けたため、大きなビジネスのチャンスを逃してしまったというのです。「金を掘るより、ショベルを売れ」という教訓です。