君は、軍隊が自国民を惨殺した韓国の光州事件を知っているか・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1882)】
女房の、アゲハチョウよ、という声に、慌ててパソコンを離れて駆けつけると、ツゲの枝先で、アゲハチョウが撮ってよと言わんばかりに、こちら向きに翅を広げているではありませんか。セイヨウキョウチクトウが白い花を咲かせています。さまざまな色合いのバラが咲き競っています。
閑話休題、君は、軍隊が自国民を惨殺した韓国の光州事件を知っていますか。1980年5月18日から27日にかけて、韓国全羅南道光州市で、反軍部・民主化を求めるデモが行われ、光州市を封鎖した戒厳軍の、デモ参加学生・市民に対する一斉射撃によって多くの人命が奪われた悲惨な事件です。
この時、厳重な封鎖を掻い潜り現地に潜入したドイツ公共放送連盟(ARD)東京在住特派員のドイツ人記者ユルゲン・ヒンツペーターが、軍による暴虐の実態と被害者たちの惨状をつぶさに撮影し報道したため、世界の知るところとなりました。
この事実を映画化した『タクシー運転手――約束は海を越えて』(DVD『タクシー運転手――約束は海を越えて』<チャン・フン監督、ソン・ガンホ、トーマス・クレッチマン出演、クロックワークス>)は、衝撃的かつ感動的な、見る者の胸に強い印象を残す作品です。
真実を追い求めた一人の外国人記者と、彼を乗せたソウルのタクシー運転手。二人の潜入を歓迎し、世界中にこの真実を伝えてくれと願い、命懸けで二人に協力する学生・市民たち。記者が撮影した映像を没収しようと必死の私服軍人たちとの息詰まるカー・チェイス。
記者、運転手、光州の学生・市民たちの仲間の一員になったかのような気持ちにさせられてしまったが、とりわけ胸が熱くなったのは、私服軍人たちに追われ、記者たちが遂に絶体絶命の状況に追い詰められた危機一髪のシーンです。一緒に逃げていた通訳役の大学生が、私服軍人のリーダーに銃を頭に突き付けられながら、隠れている記者と運転手に向かって、こう叫んだのです。「早く逃げて! 世界に真実を伝えて!」。その直後、学生は撃たれ、後日、土手に打ち捨てられた死体が発見されます。
中国の天安門事件を想起させる、激しく怒りを掻き立てられる映画です。