樹木たちの生き残り戦略から、我々が逆境を生き延びる方法が学べそうだ・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1885)】
ホンコンエンシス(常緑ヤマボウシ)が薄黄緑色の総苞をびっしりと付けています。ルドベキアが黄色い花、アメリカオニアザミが薄紫色の花を咲かせています。サボテン(橙色)も頑張っています。
閑話休題、『イタヤカエデはなぜ自ら幹を枯らすのか――樹木の個性と生き残り戦略』(渡辺一夫著、築地書館)では、36種の樹木の生き残り戦略が紹介されています。
「人間と同じように、樹木の一生にはいろいろなことがあります。台風も来れば、虫にも食われます。どこでライバルに出し抜かれるかもわからない。しかし、樹木はそれでも負けずに、子孫を残すために奮闘しています。厳しい環境やライバルたちに負けてしまえば、生き残ることはできません。だから子孫を繁栄させるための『生き残り戦略』も、じつに多様です」。
例えば、「ヤブツバキ――競わない生き方」は、哲学的でさえあります。「樹木にとって高く大きくなることは、たくさんの光を獲得できることを意味する。それはとても有利な戦略にみえるのだが、樹木の中にはあまり大きくならない木もある。しかし、それもひとつの戦略である」。
「森は、高木、亜高木、低木と高さによって階層をなしていることが多い。・・・亜高木層は日当たりが悪い。しかし、(亜高木の)ヤブツバキの耐陰性は非常に強く、日当たりが悪くても枯れることなく生き延びている。ヤブツバキは弱い光を活用して光合成を行い、呼吸による消費量を抑えることによって、生活に必要な栄養を得ることができるからである。いわば、収入が少ないが支出も少ない、節約型の生き方をしている樹木である」。
「亜高木層は風が弱い。そこでは風に乗せて花粉を遠くまで飛ばすことは期待できそうにない。そこで、ヤブツバキは花粉を主に(メジロやヒヨドリなどの)鳥に運んでもらっている。・・・冬に花を咲かせるメリットは、冬には食料が少ないうえに、競争相手の植物が少ないため、鳥に来てもらいやすいことだ」。
「ヤマザクラ――もてなしの達人」の生き方にも感心させられます。「ヤマザクラは、花粉を運んでもらうために、花から蜜を出している。この蜜は、花粉を運んでもらう虫や鳥への報酬である。一方でヤマザクラは、花以外の場所、つまり葉からも蜜を出している。では、葉の付け根から出ている蜜は誰に与えるためのものだろうか。じつは、この蜜はアリを呼ぶためのものなのだ。アリを呼んでどうするかというと、アブラムシを追い払ってもらうのである。アブラムシはヤマザクラにとって、葉などの液を吸う害虫だ。アブラムシは繁殖力が強く、ヤマザクラにとっては厄介な存在だ。・・・ヤマザクラは、敵(アブラムシ)の天敵(アリ)を、『用心棒』として雇って、わが身を守っているのである。その報酬、つまり用心棒代が、蜜腺から分泌される蜜というわけなのだ」。
「ヤマザクラも、鳥との長い付き合いの歴史の中で、いろいろな味や色のフルーツを試行錯誤しながら作り、消費者である鳥たちの口に合うように改良し続けたのである。ヤマザクラが、今日まで森の一員として生き残ってこれたのは、美と味覚で鳥たちをもてなしてきた努力の結果である」。
「イタヤカエデ――どこまで無駄を削れるか」の戦略は、驚くほど多様です。「カエデの仲間は、ひさしのように水平方向に広がった、平べったい枝葉を出しているものが多い。このような枝葉の茂らせ方をするのは、葉がお互いに重ならないようにするためである。葉が重なると、下の葉に日が当たらなくなってしまうのだ。『無駄』のない葉の茂らせ方である」。
「日当たりの悪い場所で生きるために、カエデ類は葉の構造に関しても、『無駄』をなくす方向に進化してきた。カエデ類の葉は薄い。葉が薄い理由は、コストを抑えるためである。葉は製造コスト(材料としての栄養)がかかるし、付けているだけでも維持コスト(窒素など)がかかるので、できるだけ無駄を省いて効率よく光合成(栄養の生産)をしたい。しかし、弱い光のもとでは、分厚い葉をつけても葉の表面に近い部分までしか光が透過せず、葉の裏側に近い部分には光が届かない。つまり、光合成ができない無駄な部分ができてしまう。葉を薄くしたのは、そんな無駄な部分を切り落としたからである」。
「イタヤカエデは、暗い林内でも種子が発芽することができる。しかし、発芽した場所があまりに暗ければ、そこでほとんど大きくならないまま、時には10年以上も稚樹の状態で待たねばならない。わずか数10センチの稚樹が、樹齢15年ということもある。しかし、あまりに暗すぎるとイタヤカエデの稚樹とても枯れてしまう。その限界は、その光環境で光合成で作ることのできるエネルギーの量と、枝葉を維持していくのに必要なエネルギーの収支がマイナスになってしまった時、つまり赤字になった時点だ。ところがイタヤカエデの場合、ここで大胆なリストラを行うのである。幹や枝葉を維持するのに栄養を使わなければならないので、地上の部分をいったん枯らしてしまうのだ。枯れたといっても根だけは生きている。そして根元から萌芽して、葉を出す。こうしてあらたに身軽な体になって、ほそぼそと生きていく。・・・種子で環境の好転を待つのではなく、稚樹で待つのである。発芽した後に、地上部を枯らし、エネルギーの消費を減らし、明るくなるチャンスを待つのである」。
樹木たちの生き残り戦略から、我々が逆境を生き延びるヒントが得られそうです。