ユニークな視点から植物の奥深い世界に肉薄した大型図鑑・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2013)】
林立するモウソウチク(写真1)の中に分け入り、盛んに鳴いているカケスを撮影しようと頑張りましたが、失敗に終わりました。ホトトギス(写真2、3)、シロホトトギス(写真4、5)が咲いています。我が家の庭の片隅では、タイワンホトトギス(写真6~8)が咲き、トラマルハナバチ(写真9)が吸蜜しています。あちこちで、さまざまな色合いのコスモスが風に揺れています。
閑話休題、『FLORA 図鑑 植物の世界』(スミソニアン協会・キュー王立植物園監修、塚谷裕一日本語版監修、東京書籍)を手にした時、思わず取り落としそうになったので、重さを量ったら、2.2kgもありました。重さにふさわしく、ユニークな視点から植物の奥深い世界に肉薄した大型図鑑です。
「本書は、植物に関する芸術と科学とを融合させた本です。そして、素晴らしい写真によって、植物の非常に細かな部分までとらえました。この本ができ上がるまでの間、私自身も同僚たちと、素晴らしい写真の数々につい見入ってしまいました。この世のものとは思われないほど美しい、数々の植物の拡大写真を見ていると、まるで『ガリバー旅行記』の小人国(リリパット)に上陸して、巨大になった植物たちを目の当たりにしたかのような気分になったものです」。本当に、未知の世界に迷い込んだかのような錯覚を覚えます。
「本書の一つの特徴は、植物の分類の代表的な科について、最新の知識に基づき手際よく説明しているところだ。少し前まで植物は、見た目の違いを中心に類縁関係が推定され、属、科、目といった単位で分類体系が組まれてきた。ところが最近、DNA情報をもとに系統関係を調べることが可能となり、検討しなおされた結果、多くの植物について、類縁関係の誤解があったことが明らかになったのである。特に間違いが多かったのは、科の単位の類縁関係。そのため、昔から長年かけて図鑑で覚えていた科についての知識は、多くが思え直しになってしまった。タマネギがユリ科からヒガンバナ科に映ったり、春の花のオオイヌノフグリがゴマノハグサ科からオオバコ科に移ったり、アジサイがユキノシタ科からアジサイ科として独立したりなど、身近なものでも多くの変化が起きたためだ。これはしかし若い世代にとって大きなチャンスである。まだ頭がまっさらなうちに、本書でぜひ、今の正しい分類体系を覚えるきっかけを得ていただければと思う」。世の中は進歩しているのですね。
写真だけでなく、説明も工夫されていて、勉強になります。
「アジサイと土の酸度――ガクアジサイは土壌の酸度によって花色を変化させる。ph7以上のアルカリ性土壌では、花の色は通常ピンクか赤になる。一方、ph7以下の酸性土壌ではアルミニウムが水に溶け出し、根を通してアジサイに吸収される。すると、これらのアルミニウムイオンが赤い色素と結合し、青色の花を咲かせる」。
「ヤドリギ――ヤドリギと、その類似種であるオークヤドリギは、さまざまな落葉樹に寄生することで知られる。寄生された宿主は変形することはあるが、栄養を奪われすぎて枯れることはめったにない。宿主が枯死すれば、ヤドリギも一緒に死んでしまうからである。・・・冬場、すっかり葉の落ちた木の上に、ヤドリギが差し渡し1m以上の丸い塊になって鎮座する姿を見ることがある。この塊はそれぞれが別の個体であり、規則的に分枝した枝が密集してできている」。私が鳥の巣と思ったものに、ヤドリギの塊が紛れ込んでいたかもしれません。
「モウソウチク――地上30mにも及ぶ林冠を形成するモウソウチクは、その巨大さから、樹木と間違われることが多い。茎が木化して高く育つ点では確かに珍しいが、この植物は、れっきとしたイネ科の草である。他のイネ科植物と同様、モウソウチクも節のついた茎、すなわち稈(かん)を持つのが特徴だ」。巨大なモウソウチクが、イネ科の草だったとは!
「斑入りの葉――葉の色が2色以上になる現象を斑入りという。斑入りの葉は、庭に植える植物ではよく見られるが、光合成ができるのは緑の部分だけなので、自然界では非常に珍しい。斑入りの葉を持った園芸品種は、ほとんどがキメラで、葉の色の異なる部分には、遺伝的に異なる細胞が含まれている。一方、熱帯雨林の植物の中には、枝の間から差し込む日光で傷まないようにしたり、動物に食べられないように病気にかかっていると見せかけたりするために、葉が斑入りになっているものがある。これは園芸品種の斑入りと違い、構造斑入りといって、緑の色を下に隠しつつ、光を反射する層をつくることで白銀に、あるいは着色した色を見せるものである」。野生種に斑入りがほとんどないことが、よく分かりました。
「花蜜へと導く――人間の目は、反射光をさまざまな色として見ているが、ポリネーター(送粉者、花粉媒介者)の多くは、それとは全く違った世界を見ている。特にハチは、紫外線域を含む特定の波長範囲を知覚しており、それによって、人間の目には見えない線や点、その他の模様といった花の特徴を見ることができる。この特徴は、蜜がある場所へハチを直接導く標識となっている。この『蜜標』は、花が花粉をまき散らすのに役立つもので、ハチにとっても、植物にとっても非常に重要である。・・・ホトトギスの独特なまだら模様は、蜜を求める昆虫に、蜜があることを知らせている。ホトトギスの斑点模様は人間にも見えるが、ハチは蜜標としては線よりも点を好むので、次第に大きくなる点は主なポリネーターであるマルハナバチを特に引き寄せる。斑点が小さいほど蜜腺から遠い。大きな点によって、蜜が近くにあることをマルハナバチに知らせる」。ホトトギスの斑点の大小に、そんな意味が込められていたとは、驚きです、