榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

君は、ティル・オイレンシュピーゲルという稀代のいたずら者がいたことを知っているか・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2015)】

【amazon 『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら』 カスタマーレビュー 2020年10月20日】 情熱的読書人間のないしょ話(2015)

湿地の遊歩道で、事故か事件に遭って間もないと思われるウシガエルの幼体の死骸を見つけました。その近くで、ハバヒロカマキリの死骸も発見。こちらは間違いなく、殺人ならぬ殺虫事件です。違う場所で、生きているハバヒロカマキリをカメラに収めました。クレオメ(セイヨウフウチョウソウ)、シュウメイギクが花を咲かせています。あちこちで、イヌサフランが咲いています。因みに、本日の歩数は12,079でした。

閑話休題、『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら』(ヘルマン・ボーテ著、阿部謹也訳、岩波文庫)は、主人公オイレンシュピーゲルが、教皇、国王から農夫、下女まで、さまざまな身分の者たちを欺き、からかう様を描いた中世ドイツの民衆本です。

訳者・阿部謹也の、この民衆本の作者探しや歴史的意義についての解説は読み応えがあるが、物語そのものを覗いてみましょう。

「第27話 オイレンシュピーゲルがヘッセン方伯のために絵を描き、私生児にはその絵がみえないと思い込ませたこと」は、こんなふうです。「ヘッセンの国でもオイレンシュピーゲルはとてつもないいたずらをやらかしたのです。・・・方伯はそれら(オイレンシュピーゲルが買い込んで,見せた見本)が大変気に入って『師匠よ、この広間の壁にわがヘッセン方伯の歴代の祖先の肖像画やハンガリア国王やその他の諸侯や君主とわが家が結んでいた親しい交わりがいかに連綿とつづいているか。それらのすべてをできるだけ豪華に描いてもらいたいのだが。それにはどれほどさしあげたらよいだろうか』とたずねました。・・・3、4週間たちました。方伯は師匠が職人とどんな絵を描いているのか、見本と同じようによい出来かどうかをみたいものだと思いオイレンシュピーゲルに『ああ師匠よ。余はお前の仕事をみたいのじゃ。お前と一緒に広間へ入ってお前の絵をみたいがどうじゃ』とたずねました。オイレンシュピーゲルは『よろしいですとも、お殿様。けれどもお殿様と一緒にあの絵をご覧になる方にはひとつだけ申し上げておきたいことがございます。正しい結婚によって生まれたのでない人にはあの絵はみえないのでございます」といいました。方伯は『師匠、それは大したものだな』といって一緒に広間へ入ってゆきました。・・・方伯には白い壁以外何もみえませんでしたが心の中で、もしかすると余は不義の子かもしれんぞ。白い壁しかみえないからなと思いましたが、(対面上)『師匠、この絵に余は満足じゃ。けれども十分な知識がないので、よくは解らんわ』といって広間を出てゆきました。・・・(漸く方伯が騙されたことに気づいた時には)オイレンシュピーゲルは(受け取った金と共に)マールブルクをあとにし、二度と絵かきにはなりませんでした』。

「第17話 オイレンシュピーゲルがある病院の患者全員を薬も使わずに治したこと」も、興味深い話です。「あるときオイレンシュピーゲルはニュルンベルクにきて大きな紙を教会の扉と市参事会堂に張り出し、どんな病でも治す名医であると宣伝しました。ちょうど町の新しい病院は病人であふれていました。病院の院長は病人たちを少しでも多く、もう健康になったといって退院させたがっていました。そこで彼は医者になりすましたオイレンシュピーゲルのところへ行って、張り紙のとおり自分の患者たちをなおしてもらえるかどうかたずね、もし治して貰えればたっぷりお礼をするといったのです。・・・(オイレンシュピーゲルは)患者一人一人にどこが悪いのか聞いてまわりました。そして最後に一人一人の患者にいったのです。『わたしがこれからいうことはお前一人の胸にたたんで決して誰にもいってはいけないよ』と。患者は彼を信用してそのとおりにするといいますので、彼は『お前たちを治して歩けるようにするにはお前たちのうち誰か一人を黒焼きにして粉にして、それを他の者に飲ませる以外は方法がないのだ。だからお前たちのなかで歩くことができない者を粉薬にしようと思うのだ。そうすれば他の者を助けることができるのだからな。わたしが病院の院長をつれてきて、戸口で病気が治った者はでておいでといったら寝過ごさないようにしろよ。最後の者が皆の身代りになるのだから』と彼は一人一人にいったのです。皆はこの言葉をよく覚えていましたから、約束の日にはびりにならないようにと皆松葉杖をついたり、なえた足をひきずってあわてて出てきました。オイレンシュピーゲルが予告したとおりにどなりますと皆走りだしました。10年間ベッドから離れられなかった者までが走ったのです。病院がこうして空っぽになってしまうとオイレンシュピーゲルは院長に報酬を請求し、急いで旅立たなければならないといったのです。院長は大変感心して金を払うとオイレンシュピーゲルは馬で出発してしまいました。しかしながら3日もたつと患者たちは皆戻ってきて、自分の病気を訴えるのです。・・・病院の院長はようやくオイレンシュピーゲルにいっぱいくわされたことがわかったのですが、彼はもう立ってしまって手のくだしようがありません。こうして患者たちは前どおり病院にひしめいたままで、金は戻ってきませんでした」。この件(くだり)を読みながら、突然、笑い出したので、女房に驚かれてしまいました。