飄々とした味わいが堪らない、中年独身男のエッセイ集・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2027)】
ジョウビタキの雄(写真1、2)、オナガ(写真3~5)、カルガモとツワブキ(写真6)をカメラに収めました。庭仕事中の女性がウンシュウミカン(写真7、8)とユズ(写真9、10)をもぎって、女房に手渡してくれました。ユズ(写真11~13)が鈴生りになっています。直径15cmほどのシシユズ(オニユズ。写真14、15)が実を付けています。因みに、本日の歩数は12,117でした。
閑話休題、『中年シングル生活』(関川夏央著、講談社文庫)は、中年独身男が自らの生活を率直かつ自虐的に綴ったエッセイ集です。
「好んでひとり暮らしをするのかと聞かれたら、違うという。家庭をつくりたいのにがまんしているのかと問われたら、それも違うと答える。ひとりで生きるのはさびしい。しかし誰かと長くいっしょにいるのは苦しい。そういうがまんとためらいに身をまかせてあいまいに時を費し、ただただ決断を先送りにしつづけてこうなった。つまり、ひとり暮らしは信念などではない。ひとり暮らしとは生活の癖にすぎない。問題は、癖はやがて身に染みつくということである。染みを分析してみれば、その成分の多くは『わがまま』だろう。それは認めざるを得ない」。
「おもに男性である中年独身者が、ひとりで仕事をし、ひとりで遊び、ひとりで老いていく東京という町の生理が日本の落日を早めているのだと、一陣の寂寥の風とともに発見する」。
「ひとりものはいつも将来が不安だ。頭と体が丈夫なうちはいい。しかし年をとったらどうするか。国民年金はあてにならない。金がなければ、ひとりでは生きていけない。ひとりでは死ねない。・・・年をとったらどうしよう、気力が萎え頭がまわらなくなったどうやって食べていこうと思いめぐらす中年独身男の不安と、ジタバタへの衝動はついに拭いきれないのである」。
「林子平はこういった。『親は無し妻なし子無し板木なし金も無ければ死にたくも無し』。高校生の頃は笑って読んだものだが、いまはまさに肺腑をえぐるようだ。『板木』は『版木』とおなじ。ここでは幕吏に没収された『海国兵談』の木版を指す。憂国の先覚者林子平は、欧米列強の侵略を率先防衛せよと説いたが、太平の夢から覚めない幕府にその意は通じなかった。もっとも子平はひそかに自著の写本をとっており、のちに写真に写本が重ねられて世に残った。人は、そういうお前は板木だけはあるじゃないかというかも知れない。小銭だってないわけではなかろう、というかも知れない。たしかに、いまのところ板木も小銭もある。しかしいつまでつづくものやら。書き手なんて所詮人気商売だ。・・・特典はいくらかあるが、不利もあまたある。保険がない。組合がない。退職金がない。有給休暇がない。読者が絶えれば自動的に自由契約だが、プロ野球の選手と違って性格が悪いからおでん屋もつとまらない。というふうなことを考えると気が滅入る、筆がとまる。頭を搔きむしると毛が抜ける」。
飄々とした味わいが堪らない一冊です。