榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

脳は「知らなかったことを知る瞬間」が好き・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2266)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年6月26日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2266)

チョウトンボ(写真1~3)、オオシオカラトンボの雄(写真4)、シオカラトンボの雄(写真5)、雌あるいは未成熟雄の褄黒(つまぐろ)型(写真6)、ジャノメチョウ(写真7~11)、ニホンアカガエル(写真12)をカメラに収めました。どちらのグループのカルガモ(写真13、14)の雛たちも大きく育っています。

閑話休題、『AI時代に自分の才能を伸ばすということ――「脳」から見た人間の創造性、芸術、個性』(大黒達也著、朝日新聞出版)のおかげで、知らなかったことを知る瞬間を味わうことができました。

●微妙なズレ――
「基本的に人間の脳は、常に新しいものに触れ続けると、その情報を処理することにエネルギーをたくさん使ってしまうため疲れてしまいます。一方、常に当たり前すぎるものに触れ続けても脳は飽きてしまい、感動が生まれません。つまり、あまりにも予測からズレすぎず、かといって当たり前すぎない『微妙なズレ』に、人はなんともいえない感動を覚えると考えられています。・・・ある程度わかるけれども、少しわかりづらい『予測や経験からの微妙なズレ』のある問題に取り組むほうが、知的好奇心がくすぐられて感動や喜びがえられます」。

「音楽もこれと同じことがいえるのです。・・・『機械のように正確に演奏する』だけではなく、『完璧に演奏できるようになったその次のステージ』にこそ、『ゆらぎ』が生まれ、そこに個性や創造性、芸術的感性が宿るのです。(現在、私は)『ゆらぎ』を生み出す脳の学習システム『統計学習』に着目し、研究しています。・・・統計学習とは、『次に何が起こるのか』の確率を無意識に計算し、把握・予測する脳の働き・システムのことです。・・・この『統計学習』は、人間の思考や行動に多大な影響を与えます」。

●知らなかったことを知る瞬間――
「人間の脳が学習からえる喜びは、『すべてを理解しきった状態』(不確実性が0の状態)よりもむしろ『知らなかったことを知る瞬間』(不確実性が下がる瞬間)にあります。しかし、一度不確実性が下がりきって0の状態になってしまった情報は、今後、不確実性の低下による喜びをえることはできません。つまり、人間にとって最適な環境とは、『不確実性が0の環境』ではなく、『不確実性を下げる見込みのある環境』なのです。人間が芸術や創造に興味をもつのは、抽象的な表現がなされた芸術やクリエイティブな作品から、何かしらの法則性を求めたり、自分なりに解釈して理解しようとしたりするからかもしれません」。

●AIと人間――
「人工知能(AI)とは、シンプルにいえば『人工的に作った知能』です。この『知能』は、『唯一の最適な解を追求するための収束的思考(≒不確実性を下げる統計学習)』が得意といえます。解に対する不確実性を限りなく『0』に近づける『不確実性を下げる』思考を技術によって代行しているのが現在普及しているAIといえるかもしれません。一方、『収束的思考』とは逆のベクトルが、『拡散的思考(≒不確実性を上げる統計学習)』です。これは『創造性』に重要な思考とされています。自分の知らない世界を知りたいという興味や好奇心(内発的意欲)によって、新しい発想・アイデアを広げていく思考です。自分がこれまで経験したことのない現象への取り組みですのせ、『不確実性を上げる』思考といえるのです。現時点では、AIが得意なのは、不確実性を下げる『収束的思考』といえます。一方で人間は、収束的思考だけを行うわけではありません。不確実性を上げる『拡散的思考』も行います。何より人間は、『不確実性を下げる』『不確実性を上げる』という逆のベクトルの2つの思考・行動をあえて起こします。そしてその2つの異なる力のせめぎ合いから生まれる『ゆらぎ』が人間の『個性』や『創造性』の源になっていると考えられています。拡散的思考とともに、そのゆらぎから生まれる個性や創造性が人間らしさといえ、人間の得意なことといえます。少なくとも現時点では、この人間らしい思考の『ゆらぎ』をAIで実装することは難しいでしょう」。