榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

浮気好きな種の脳は小さい、気のおけないつながりは150人まで――説得力のある科学エッセイ集・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2336)】

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アオスジアゲハ(写真1、2)のカップルが飛び回っています。カキ(写真3~5)、コムラサキ(写真6、7)、シロミノコムラサキ(写真8、9)が実を付けています。センニンソウ(10、11)の花が仄かな芳香を漂わせています。我が家の片隅でタイワンホトトギス(写真12)が咲き始めました。

閑話休題、『友達の数は何人?――ダンバー数とつながりの進化心理学』(ロビン・ダンバー著、藤井留美訳、インターシフト)の中で、とりわけ印象深いのは、「貞節な脳(男と女)」、「ダンバー数(仲間同士)」、「今夜、ひとり?(魅力)」の3章です。

●浮気好きな種の脳は小さい――。
「哺乳類になると、一雌一雄関係は全体のわずか5パーセントと少数派に転落する。それでもイヌ、オオカミ、キツネ、レイヨウの仲間は一雌一雄だ。彼らの脳は、大きな社会集団のなかで相手かまわず交尾する種より大きい。・・・脳を大きくして、さらにそれを維持するにはとてもコストがかかる。・・・一雌一雄関係には苦労がつきものだから、脳を大きくしないとこなせないのではないか。シギやチドリ、シカといった群れで生活する動物には無理な芸当なのだ。では決まった相手と添いとげる一雌一雄関係は、具体的にどんな負担を脳に強いているのだろう? まずひとつ考えられるのは、死ぬまで連れそう関係にはリスクが満載だということだ。生殖能力がない、子育てをさぼる、ほかの異性になびくといった悪条件の相手を選んでしまったら、種全体の遺伝子プールに自分の遺伝子を残すことができない。生物学的に言えば、生きる目的はつまるところ種の遺伝子を残すことだ。だとすれば、ダメそうな相手を見抜くために、コストを投じて脳を大きく発達させるのも納得がいく。そうすればいろんなトラブルを避けることができるし、進化レースで優位に立つことができる。だが一雌一雄関係にはもうひとつの側面もあって、そちらも同じぐらい重要だ。それはパートナーにあわせて自分の行動を変える能力である。・・・つまりパートナーを選ぶなら、あなたが何を必要としているかを理解し、まじめに帰宅して家事を分担してくれる人にしなさいということ。相手の立場でものを考える――それは脳にとってかなり難易度の高い仕事だろう。私たちも経験上よく知っているが、決まった相手との関係を長年続けることは容易ではない。不和の芽を見つけて早い段階で摘みとるには、また仮に衝突が起こったとしても、関係を修復して良好な状態に戻すには、想像力とまめな行動力が求められる」。

●気のおけないつながりは150人まで――。
「人間の『自然な』集団サイズを知るには、いまだに文明化されておらず、とくに狩猟と採集で生活する集団に着目するのがよさそうだ。・・・くわしい人口調査が行われた約20の部族社会では、氏族や村といった集団の平均人数は153人であることがわかった。細かく見ると100~230人まで幅があるが、統計的には150人という平均の範囲におさまる。では技術が発達し、文明化が進んだ社会はどうだろう? ここでも150という数は社会単位として適当だろうか? その答えはイエス。・・・ビジネスの世界でもこの数はおなじみだ。ビジネス組織論では1950年代からよく言われてきたことだが、組織の規模が150人ぐらいまでなら、ひとりひとりの顔がきちんとわかるレベルで仕事が回る。それ以上になったら、序列構造を導入しないと仕事の効率は落ちる。分かれ目は150~200人で、それを超えるとさぼりや病欠がぐっと増えるのである。・・・ひとりひとりをきちんと認識できるのは、150人前後の集団まで。このことは、私たちの記憶容量と関係があるのだろうか(顔や名前を覚えられるのは150人までとか、150人より多くなると相手との関係がこんがらがるとか)。それとももっと微妙な問題で、関係の質と情報がからんでいるのだろうか。おそらく後者だと思われるが、その根拠を2つ挙げてみよう」。

●魅力の秘密――。
「私たちは哺乳類だから、お相手探しのパターンも哺乳類の流儀にしたがっている。生殖の成功率を最大限に引きあげたいオスの選ぶ道はただひとつ、できるだけたくさんの卵子に受精させること。ヒトの場合は、若くて受精能力が盛んな女を選ぶか、一度にたくさんの女と結婚するかである。対して女のほうは生まれた子どもを育てあげねばならないから、子育てにプラスになる相手を求める。だから恋人募集の条件で収入や地位、職業(要するに金があるかどうか)を重視するのだ。さらに女の場合は、長期的な関係が築けるどうか、人づきあいのスキルが高いかどうかも相手選びの重要な基準となる。・・・相手選びのとき、男が女の外見をことさら重視するのはなぜか? それは年齢、健康状態、そして受胎能力といった大事な条件を、外見の特徴から見きわめるためだ。進化の積みかさねから生まれてきたそうした特徴は、ごまかすのが難しい。たとえばいかにも女らしい砂時計のような体型。男性(の多く)が、ウエスト・ヒップ比率が小さい、つまりウエストが細くてヒップが大きい女性を好むことは経験的に知られているが、これにはちゃんと科学的研究の裏づけもある。・・・顔もしかり、何をもって美しい顔と感じるかは、男女の生殖戦略のちがいを反映している。・・・文化や人種がちがっていても、美しいと感じる要素は共通している。ルイヴィル大学の心理学者マイケル・カニンガムは、人種が異なる人びとにさまざまな顔を見せて魅力を評価してもらったところ、美しい顔とされる特徴は文化の壁を超えて一致していることがわかった。それはかいつまんで言えば、女性なら子どもっぽい顔、男性なら成熟した顔ということになる。デヴィッド・ペレットの研究グループも、ヨーロッパ人、日本人、それに南アフリカのズールー族を対象に顔の魅力を調査したところ、よく似た結果が得られた。たで食う虫も好き好き・・・ではないのである」。