榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

猛烈サラリーマンも定年後は、他人を気にせず、好きなことをするのが一番・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2355)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年9月28日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2355)

ショウキズイセン(ショウキラン、リコリス・トラワビ。写真1~5)、イヌサフラン(写真6、7)が咲いています。近くの農家の庭先で、穫れたてのオオマサリ(写真8~11)という品種の落花生を購入しました。普通の落花生と並べると、かなり大きいことが分かります。茹でて食べると美味です。因みに、本日の歩数は11,311でした。

閑話休題、『夢の夢こそ――短編小説集』(牧康子著、新潮社 図書編集室)の中で、とりわけ印象に残ったのは、『いいね!』です。

大手広告会社の営業部門の部長で定年退職した60歳の堀内哲夫が主人公です。

「今頃、会社ではみんな忙しくしているのだろう。自分だけ、こうして無為に年をとっていくのか、第二の人生なんてどこにあるんだと、うつうつとしてくる。かっこよく、いくつかの仕事の話も断って会社を辞めてしまったが、閑職でも何でも受ければよかったかもしれないと、じくじく後悔した。・・・妻は、いつもそれなりの理由を告げて外出しているが、もしかして男でもいるのではないだろうか。ありえないことではない。最近は、なんとなく自分と目を合わせないようにしている。時々は帰りが遅いこともある。夜の誘いも断られた。そんな、このところの妻の言動を考えると、自分の妻に限ってと、今までは思いもしなかった疑惑が、黒い雲のように湧き上がってきた」。

OB会仲間の、会社で2年先輩の布施から、暇を持て余しているなら、SNSに参加しろと勧められます。SNSの具体名は書かれていないが、どうもフェイスブックのようです。「堀内は、試しにそのSNSを始めてみようかという気になった。そうすれば、定年後の一つの世界が広がるかもしれない。何でもいいのだ。新しいことに手を出せば、このところのうつうつとした毎日の突破口が開けるかもしれないと思った」。

妻から、乳がんの疑いがあって、検査が長引いたが、良性の腫瘍と診断されたと明かされます。「このところのいくつかの不審な言動も、乳がんの心配を隠していたためと分かれば、すべて納得がいく。そんな苦悩も知らず、冷たいと恨んだり、男ができたのかもしれないと疑ったりした自分が、とんでもない愚か者に思えた」。

「『俺、本格的に写真に取り組んでみようと思う。カメラを買い替えてもいいかな』。『あなたは、会社にいらした頃は、仕事一筋。今は、SNS一筋。何かに夢中になると、ほかが見えなくなってしまうのね。十分お仕事をしてきたのだから、これからは何でも好きなことをなさったら』。妻は笑いながら賛成してくれた」。

堀内は、昼間の時間は、撮影、取材に費やすようになります。「堀内の横を、スーツ姿のサラリーマンが何人も駅に向かって足早にすれ違っていく。でも、もう心は波立たなかった。『俺の第二の人生は始まったばかりだけれど、まずまずだな』と、ひとりごちる」。

堀内は、地元の老人たちがやっているミニコミ誌を手伝うようになります。「その代わり、休日は朝早くからカメラを持って、写真を撮りまくる。・・・家に帰って写真を整理し、コメントをつけてSNSに投稿する。『友達』の投稿にも時間をかけて目を通す。まさに『いいね!』と言える新しい毎日が始まったのだ」。

私は堀内より大分年上だし、休日だけでなく毎日、デジカメを手に、散策しながら写真を撮りまくり、フェイスブックに投稿しているので、状況は多少異なるが、妙に親近感を覚えてしまいました。猛烈サラリーマンも定年後は、他人を気にせず、好きなことをするのが一番――これが、著者のメッセージと受け取りました。