榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

安野光雅のアンデルセンと鴎外に対する熱い思いが籠もった一冊・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2469)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年1月20日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2469)

我が家の上空で、カワラヒワ(写真1、2)が鳴いています。カワセミ(写真3)、ツグミ(写真4)、ムクドリ(写真5、6)、ヒヨドリ(写真7)、キジバト(写真8)をカメラに収めました。

閑話休題、『繪本 即興詩人』(安野光雅著、講談社)は、ハンス・クリスチャン・アンデルセン著、森鴎外訳の『即興詩人』が一番の愛読書だという安野光雅が、主人公アントニオの足跡を辿って描いた絵と文章で構成されています。「この、わたしの本を見て『即興詩人』を読んだような気になられたら困ります。これは鴎外の『即興詩人』に触発されて、主人公アントニオの足跡をたどったものです。つまりそれは、アンデルセンに足跡でもあるのです」。

私の一番好きな場面は、このように書かれています。「ディド(役のオペラ歌手)は舞台に上がった。<厳(おごそか)なること王者の如くにして、しかも軽(かろ)らやかに優しき態度には、人も我も径(ただち)に心を奪はれぬ>というほどで、一口に言ってラファエロの空想の中にしかいないと思われるほどの美しい人だった。・・・オペラは、二人の思わくとはつかずはなれず進行し、幕が下りた後も、『アヌンチャタ、アヌンチャタ』との呼び声がやまなかった。かの歌姫はアヌンチャタという人だった」。アントニオはアヌンチャタにすっかり魅せられてしまったのだが、行き違いがあり、二人は結ばれることなく別れてしまいます。

7、8年後、二人は思いがけない形で再会します。アントニオは、見る影もなく落ちぶれたアヌンチャタをヴェネチアの場末の劇場の舞台上に発見したのです。傍らの客席の紳士に問うたところ、「この人こそ、その名誉あるアヌンチャタなのです。盛名一時に上がりましたのは、さあ、7、8年も前のことになりましょうか。君がこの女優を見たというのは、ローマでのことでしょう。噂では4、5年前に重い病気にかかって、声がつぶれたということです」と答えるではありませんか。

安野のアンデルセンと鴎外に対する熱い思いが籠もった一冊です。