榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

子モモンガが天敵のフクロウの鳴き声を怖がるようになるのは、どの時点からか・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2541)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年4月2日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2541)

ミツバツツジ(写真1~3)、ヒヤシンス(写真4~6)、パンジー(写真7~9)、ソメイヨシノ(写真10)が咲いています。

閑話休題、『先生、モモンガがお尻でフクロウを脅しています?――[鳥取環境大学]の森の人間動物行動学』(小林朋道著、築地書館)で、とりわけ興味深いのは、「子モモンガは、成長のある時点からフクロウの鳴き声に反応するようになる――どの時点から?・・・なるほど!」の章です。

「成獣のニホンモモンガがフクロウの鳴き声に激しく反応することは、私がこれまでの研究で明らかにしており、その反応の特性はよくわかっていた。フクロウの声を聞くと巣穴に飛びこむか、あるいは、(巣穴が遠い場合には)その場で木の幹にへばりついてフリーズする(動きを止める)のである。ところが、ニホンモモンガには無害なシジュウカラやキジバトの声が聞こえても特に行動を変えることはなかった。つまり、ニホンモモンガは、フクロウをほかの鳥とは識別している、言い方を変えればフクロウを認知しているのだ。成獣がフクロウを認知するということは、生まれつきか、あるいは成長のどこかの段階でフクロウを認知するようになるということだ」。

子モモンガたちを使って実験を繰り返した結果――。「『子モモンガは、巣穴のなかだけで過ごしている段階までは、フクロウの鳴き声のみに特異的に反応する認知・行動系を発達させず、巣穴から出て、外で活動するようになったとき、その認知系が完成する』という可能性が高いことを、一連の実験結果は示している。動物行動学が依って立つ進化理論は次のような予測をする。認知・行動系は、それが、それぞれの生物種の生存・繁殖に有利に作用するときのみ、エネルギーを消費して(摂取した栄養を消費して)、いつでも作動できるように準備されている。仮に、その認知・行動系があったとしても、生存・繁殖に有利にならないときは、存在しなくなるように進化は起こる。・・・巣穴のなかにいて、外に出ることがない子モモンガが、外から聞こえてくるフクロウの声に反応しても、エネルギーの無駄遣いなのである。フクロウが巣穴のなかに入ってくることはできないのだから。一方、子モモンガたちが巣穴の外へ出るようになれば話は違ってくる。フクロウに襲われる危険性が一気に高まるのだ。そんな状況では、『フクロウ声逃避反応』を引き起こす認知・行動系は、生存・繁殖にとってとても有益な機能になるのだ」。

こういう件(くだり)を読むと、思い切って動物行動学の分野に進んでおけばよかったと思ってしまう私。