榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

現在、手一杯の悩みを抱えている人は、本書には手を伸ばさないほうがいいでしょう・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2573)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年5月4日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2573)

キショウブ(写真1~4)、フジ(写真5、6)が咲いています。ナガサキアゲハの雌(写真7)、クロアゲハ(写真8)、ガのシロヒトリの幼虫(写真9)、ツバメ(写真10)をカメラに収めました。我が家の庭にアゲハチョウ(写真13)がやって来ました。因みに、本日の歩数は13,484でした。

閑話休題、小説を読むのは別の人生を経験することだと誰かが言っていたが、『自転しながら公転する』(山本文緒著、新潮社)を読み始めてから最後のページをめくるまで、ヒロインに次から次へと降りかかってくる悩みに付き合わされ、くたくたになってしまいました。これは、山本文緒の巧みなストーリーテリングのなせる業と言えるでしょう。

与野都(よの・みやこ)・32歳は、母が更年期障害で簡単な家事もできなくなったため、東京での一人暮らしを解消して、地元に戻ってきました。そして、巨大な牛久大仏が見下ろす広大なアウトレット・モール内の大手アパレル・メーカーが展開するショップで契約社員として働いています。実を言えば、社内恋愛の年上の恋人に捨てられた都は、母に代わって家事をするという名目ができたので、これ幸いと実家に舞い戻ってきたのです。

ひょっとしたことから付き合い出した回転寿司の板前の貫一が30歳で、中卒で、無職になったことを知ります。因みに、都は高卒です。「私はピュアな人間じゃないの。貫一が無職になって、中卒だからなのか、他の理由なのか、次の仕事がまだ決まらないみたいで、いろいろ考えちゃうの。この人と結婚しても、お金には苦労するんだろうな、子供も作れないのかもしれないな、もし無理して子供を作っても私はずっと働いて、睡眠時間も遊びの時間も削ってへとへとになって生きていくのかなって思っちゃう。貫一と一緒にいるのは楽しいのに、どこかでそう思っちゃうような性格だから、(前の)恋人に捨てられるのも仕方ない人間なのかもなって思う」。

都の家を訪れた貫一は、都の父から結婚を猛反対されてしまいます。そして、その父が大腸がんの宣告を受け、手術をすることになります。その上、貫一はずるずると関係を続けるだけで、都と結婚したいのかどうか、一向にはっきりしないのです。

都は、週に2回ほど店を訪れるMDの東馬から、酔っての行為とはいえ、左胸を乱暴に掴まれるというセクハラに遭ってしまいます。美人でない都は、かねがね、顔よりも巨大なバストに男性の目が注がれることを嫌がっていました。

そんな中、店が大変な状態に追い込まれます。「ボイコット同然で辞めてしまったのはアルバイトだけではなくて、人材派遣会社に登録して働いていた数人のスタッフもだった。派遣会社から『(長谷部)店長から商品を買うように強要された』と本社へ正式にクレームがきたそうだ。店長も言っていたが、こういう非常事態にいち早く動き、会社とショップの橋渡しをして態勢を立て直すのがMDの大事な仕事である。都が(店長を務めていた別のアパレル・メーカーの)前の店でスタッフたちにボイコットされたときも、呆然とする都に代わってMDがほとんどの事後処理を引き受けてくれた。しかし今回、問題の大もとはその(店長と不倫関係にある東馬)MDである」。

現在、手一杯の悩みを抱えている人は、本書には手を伸ばさないほうがいいでしょう。いやいや、そうではないかも。同病相憐れむというか、私のほうがまだましだと、少しは癒やされるかもしれませんね。