榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

生物の雌雄はオスからメスへと(あるいはメスからオスへと)連続する特性を有している・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2914)】

【読書クラブ 本好きですか? 2023年4月10日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2914)

シマヘビ(写真1~5)に出くわしました。尾を激しく震わせて威嚇してきました。その際のシャーッシャーッという威嚇音を耳にしたのは初めてなので、びっくりしました。散策中の夫婦から、ウラシマソウ(写真6、7)が咲いていると教えられました。ニガイチゴ(写真8、9)、フジ(写真10~12)が咲いています。撮影仲間の甲田親助氏が会長を務めるVIP写真展(千葉・流山市生涯学習センターで開催中)で、撮影上の工夫のヒントを得ることができました。

閑話休題、『オスとは何で、メスとは何か?――「性スペクトラム」という最前線』(諸橋憲一郎著、NHK出版新書)の著者が一番強調したいのは、「生物の雌雄はオスからメスへと(あるいはメスからオスへと)連続する特性を有している」ということです。

これは、最近、生物研究者の著者らが辿り着いた「性スペクトラム」という考え方です。黄色が徐々に橙色に、そして赤色に変化する光スペクトラムに倣い、スペクトラムという名称が使われています。

この「性スペクトラム」という捉え方は、オスの対極にメスを置き、あるいはメスの対極にオスを置いて、2つの性を対比しながら雌雄を理解しようとしてきた従来の方法とは異なります。

「ある特徴をもって雌雄を区別したとしても、そういった区別にはどうしても当てはまらない中間型の個体や、時にはその特徴が逆転している雌雄が自然界に普通に存在していることを、研究者は以前から知っていました。そのため、雌雄を2つの対立する極として捉えることで性を理解することに違和感を抱いていたものの、残念ながらそうした考え方から解放されずにいました。しかしわたくし自身、『性スペクトラム』という考え方に沿って研究を進めるにつれて、長年感じていた違和感が次第に消失するのを感じています」。

性スペクトラムの実例として、エリマキシギには、典型的なオス、オスには見えないオス、メスにそっくりのオス――という3種類のオスがいること、ニホンカワトンボにはメスに擬態するオス、アカトンボやシオカラトンボにはオスに擬態するメスが存在することなどが挙げられています。「(アカトンボやシオカラトンボに)こうしたオス擬態型メスが出現する理由は次のように説明されています。交尾後のメスは池や沼などに産卵しますが、このときにオスが交尾しようとメスに近づくことで、メスの産卵行動を妨害することがあります。オス擬態型メスはそうしたオスの行動を受けにくくする効果があるため、効率の良い産卵行動が可能になるようです」。私が撮影したトンボがオスかメスか悩むケースが多いのも当然と言えますね。

「雌雄の外見がオスからメスへ、またメスからオスへと大きく変化する能力が多くの生物に備わっている可能性を、これらの生物種は教えてくれます」。

「雌雄の擬態型やスニーカー(こそこそ立ち回るオス)の存在から理解できるのは、生物の性はオスであってもメス側に立ち位置を移動させることができ、メスであってもオス側に立ち位置を移動させることができる、ということでした。つまり、性はオスとメスという2つの対立する極として理解すべきではなく、2つの間で柔軟に立ち位置を移動させることができるものだ、と理解すべきなのです。したがって、ある特徴に注目したときに、『オス100%』という状態だけではなく、オスの割合が低い『オス80%』や『オス50%』などの立ち位置があって、同時にメスにも『メス100%』だけではなく、『メス80%』や『メス40%』などの立ち位置があるということです。したがって、性はさまざまなレベルに位置することができると考えられます。これが性スペクトラムという、新たな性の捉え方をもとにした考え方です」。

「性スペクトラム上の位置は生まれついてのもの、つまりその個体が誕生したときにはすでに固定されていて、変化しないものなのでしょうか。決してそうではありません。つまり、性とは固定されているものではなく、生涯にわたってそのスペクトラム上の位置は変化し続けているのです」。

知的好奇心を掻き立てられる刺激的な一冊です。