本書のおかげで、手塚治虫、山崎豊子、瀬戸内寂聴をより深く理解することができた・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2962)】
シオカラトンボの雄(写真1)をカメラに収めました。サツキ(写真2、3)、シロツメクサ(クローバー。写真4、5)、アカツメクサ(ムラサキツメクサ。写真6)が咲いています。照ノ富士の優勝(写真8~11)に拍手。大逆境から奇跡的な復活を果たしたことだけでなく、人間性も素晴らしい!
閑話休題、『近代日本の「知」を考える。――西と東との往来』(宇野重規著、ミネルヴァ書房)で、とりわけ興味深いのは、●名もなきヒーローへの讃歌――手塚治虫、●仮構の現実を噛みしめる――山崎豊子、●近代女性の思想的水脈を描く――瀬戸内寂聴、の3章です。
●手塚治虫
「(ブームを巻き起こした)手塚もつねに『人気作家』だったわけではない。白土三平に代表される劇画ブームもあり、一時はその人気が低迷し、手塚自身、自らの表現手法や作品内容について、思い悩む時期もあった。それでも手塚はやがて復活し、『火の鳥』や『ブラック・ジャック』など、現在でも人気のある作品を残している。このような迷いとそこからの復活こそが、手塚の偉大さであると言えるだろう。・・・(『アドルフに告ぐ』は)『何が正義なのか』を問い返す問題作である。・・・主人公同士が最後に殺し合う『アドルフに告ぐ』の読後感は重く、暗い。手塚の行き着いた歴史観、人間観が濃厚に込められている」。『アドルフに告ぐ』は私の愛読書で、折に触れて読み返しています。
●山崎豊子
「(『不毛地帯』を)読むと、あるいは実在の人物を想起する読者も多いだろう。(主人公の)壹岐(正)があくまで潔癖に、自分なりの筋を通すべく苦闘する人間として描かれていることに、その人物を美化しているとの批判があったのも事実である。が、読んでみればわかるように、壹岐のモデルは複数おり、それを融合させ、山崎が作り出した人間像であることは明らかだろう。・・・最後まで山崎の主人公は、自分のしていることが正しいとは思っていない。大義や国益を口にしつつ、それが真実とはどうしても確信が持てない。シベリアの不毛地帯で抑留生活を送った壹岐は、やはり戦後社会においても、その不毛を噛み締めているように思えてならない。日本の国益という、ナショナリズムによる最後の砦も彼にとって絶対的なものではなかった。・・・山崎は、日本の戦後社会もまた『不毛地帯』と考えていたのだろうか。重い読後感が残った」。壹岐のモデルは瀬島龍三と思い込んでいたが、この考えは一部修正しないといけないようです。
●瀬戸内寂聴
「膨大な数の小説、エッセイを書き、各種の人生相談に応じ、後半生は僧侶として法話を行ったが、90歳を過ぎた瀬戸内自身は、『ぜひ、今も読んでもらいたい本を』聞かれれば、即座に『美は乱調にあり』と、その続編である『諧調は偽りなり』をあげたという。実際、今読んでみても登場人物に魅力があり、その悲惨な結末にもかかわらず、躍動感と自由な雰囲気に満ちた小説である。・・・瀬戸内は(ヒロインの)伊藤(野枝)を責めることなく、かといって(前夫の)辻(潤)や(現パートナーの)大杉(栄)を――その欠点とともに――魅力的な人物として描くことを忘れない。この時代の行動的な若者たちによる自由の精神の軌跡を表現した作品として秀逸である」。私も、この2冊が瀬戸内の最高傑作と考えています。