榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

自費出版を考えている人は、ちょっと待て!・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3022)】

【読書クラブ 本好きですか? 2023年7月27日号】 情熱的読書人間のないしょ話(3022)

1時間粘った甲斐があり、パトロールをほんの一瞬休憩したギンヤンマの雄(写真1)を撮影することができました。ウチワヤンマ(写真2、3)、オオシオカラトンボの雌(写真4)、シオカラトンボの交尾(写真5~7、上が雄)、チョウトンボ(写真8)、アカボシゴマダラ(写真9、10)、コミスジ(写真11)、アブラゼミ(写真12)、ヒグラシの雄(写真13)をカメラに収めました。ゴーヤー(写真14、15)が実を付けています。

閑話休題、百田尚樹の政治信条と言動は私とは対極に位置しています。しかし、『夢を売る男』(百田尚樹著、幻冬舎文庫)は文句なく面白い一冊です。

自費出版を考えている人は、ちょっと待て! 本書を読んでからにしたほうがよいでしょう。本署には、自費出版ビジネスの真相が赤裸々に描かれているからです。

●「たったの十分で二百万稼ぎましたね」。「馬鹿野郎、それなりに苦労はしているさ。それに契約が済むまでは稼いだとは言えん。契約の直前に気が変わる奴はいくらでもいる。だから、この後が大事なんだ。ハンコを押させるまでは絶対に油断しないことだ」。「でも、たかが千部の本なんか数十万円で作れるのを、世間の人は知らないんですね」、「そんなことが知られたら、大変だ」。

●「実際に小説を書く奴は一部だろうが、俺は、かなりの日本人が、『自分にも生涯に一冊くらいは何か書けるはずだ』と思ってると思う」。

●「小説なんか書いたことのないフリーターに本を出させるんですから、もうびっくりですよ」。「あの手の根拠のない自信を持っている若者をその気にさせるのは簡単なもんだ。自分はやればできる男だ、と思っているからな。自尊心にエサをつけた釣り糸を垂らしてやれば、すぐに食いつく」。

●「歳を取ってからも、若い時に小説を出したんだという素晴らしい思い出が残る。孫にだって自慢できる」。

●「俺たちの仕事は客に夢を売る仕事だ」。

●「原稿は読んでないが、団塊世代の自分史らしいじゃないか。あの世代でそういうのを書く男は自意識過剰で自己顕示欲が非常に強いんだ。自分は本当はすごいんだ、本当の自分をみんなに教えてやりたい、という気持ちがやたらと強い。だから、そのあたりを満足させてやれば、契約などは簡単だ」。

●「自費出版じゃステイタスが上がらないんだ。金を使って自己満足で本を作ったと、周囲に受け取られる。それでは本を出す意味がないんだ。ところが丸栄社で出せば、これは自費出版ではない。ISBNコードもつくしな。一般図書と同じ本ということになる。東野圭吾や宮部みゆきと同じように、全国の書店に並ぶということが客の自尊心を大いにくすぐるんだ。そこがキモだ」。「実際は自分で金を出して作ってるんですけどね。それにISBNコードなんか個人でも取れるのに」。「世間に人はそんなことは知らんさ」。

●「ある種のタイプの人間にとって、本を出すということは、とてつもない魅力的なことなんだよ。自尊心と優越感を満たすのに、これほどのものはない。特に日本は本の持つ価値が高い。読書が趣味というだけで一目置かれる国だからな。その本を出す著者となれば、さらに一目置かれる存在になる」。

●「うちの本は丸栄社のものだから、著者は友人に配ろうと思えば、うちから買い取らないといけない。もちろん、著者特典ということで、八掛けくらいで売ってやるがね」。「八掛けでもうちはボロ儲けですね。著者は自分の金を使って作った本を、自分で買うわけですか」。「阿漕な商売だよ」。

●「文庫は製本単価が安い。七十万円くらいでも十分儲けが出る。つまり百万円とか二百万円とかの高額な金を出せない客も取り込めるんだ。普通の本だと安物のペーパーバックみたいなものになる金額でも、文庫ならそこそこのものができる」。

●「毎日、ブログを更新するような人間は、表現したい、訴えたい、自分を理解してほしい、という強烈な欲望の持ち主だ。こういう奴は最高のカモになる」。

●「世の中には、自己顕示欲を満足させるために本を出す人間がこれほど多かったのかと、あらためて思いました」。

百田の筆は、自費出版ビジネス暴露に止まらず、作家、批評家、出版社批判にも及んでいます。こんな内容の本を出して、作家仲間や出版社から文句が来ないのでしょうか、他人事ながら心配になります。