榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

桓武天皇は、通説のように天智系天皇ではなく、天武系天皇を自任していたという仮説・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3135)】

【月に3冊以上は本を読む読書好きが集う会 2023年11月17日号】 情熱的読書人間のないしょ話(3135)

モミジバフウ(写真1)が紅葉、ユリノキ(写真2)、イチョウ(写真3~6)が黄葉しています。このマテバシイ(写真7、8)はナラ枯れしているようです。

閑話休題、『桓武天皇――決断する君主』(瀧浪貞子著、岩波新書)が提示する桓武天皇像は、かなりユニークです。

その第1は、桓武は通説のように自らを天智系天皇と位置づけていたのではなく、天武系天皇を自任していたというのです。

「(父の光仁天皇同様)桓武もまた、酒人内親王(光仁と井上との間の娘。聖武の孫)をキサキとすることで、聖武に連なっていた。・・・そんな桓武が、天武系天皇としての矜持を持って即位したのは当然である。それだけではない、桓武が持った、自身が天武系天皇であるという皇統意識は終生変わることはなかった、と言えば、これまたおそらく頭ごなしに否定されるであろう。これまでは天智の曾孫である桓武の即位によって、皇統が天武系から天智系に切り替えられたとし、桓武を境に皇位継承のうえで大きな転換があったと理解されてきたからである。かくいうわたくしも例外ではなく、そのように考えてきた。ところが本書の執筆を進め分析を重ねていく中でわたくしが確信をしたのは、桓武に一貫しているのは自身が天武系皇統の天皇であり、その自覚を強く持って行動していた姿であった」。

第2は、桓武は政治的パフォーマンスを好んだ人物だというのです。

「折に触れて桓武が公卿たちの前で演じたパフォーマンスの多くは、自身を理想的君主に仕立てるための演出だった。わたくしの見るところ、桓武はある時期から血統(皇統・血脈)でなく、政治力によって指導性・君主性を発揮し、自らの正統性を天下に訴えるようになる」。

第3は、天皇になれる可能性がほとんどなかった桓武が即位できたのは、藤原百川の陰謀によるものだというのです。

「山部(桓武)は(百済系渡来氏族という)生母高野新笠の出自の格の低さから、皇位継承の立場になく、即位の可能性は皆無であったといってよい。そんな山部であればこそ、与しやすいと見た百川たちは山部に白羽の矢を立てて他戸の廃太子事件を捏造し、山部の立太子を実現したのである」。

著者の仮説が史実を反映しているのかは、浅学の私には判断しかねるが、本書のおかげで、桓武がぐっと身近に感じられるようになったのは確かです。