榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

『御堂関白記』、『小右記』、『権記』を材料として、藤原道長の人物像を再現した意欲的な著作・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3157)】

【月に3冊以上は本を読む読書好きが集う会 2023年12月8日号】 情熱的読書人間のないしょ話(3157)

シクラメン(写真1、2)、ポインセチア(写真3~6)が花屋の店頭に並べられています。因みに、本日の歩数は11,330でした。

閑話休題、『藤原道長の権力と欲望――紫式部の時代』(倉本一宏著、文春新書)は、藤原道長の日記『御堂関白記』、藤原実資の日記『小右記』、藤原行成の日記『権記』を材料として、道長の人物像を再現した意欲的な著作です。なお、『御堂関白記』には道長33~56歳の、『小右記』には実資21~84歳の、『権記』には行成20~55歳の記事が記されています。

「道長の側近ではあったが、実は道長とは結構、屈折した関係にあった行成、道長に批判的でありながら、実は尊重し合っていた実資、そして豪胆にして小心、磊落にして繊細、親切にして冷淡、寛容にして残忍、涙もろくてよく怒る、冗談好きで愚痴っぽい道長という三人の記録した日記を材料として、道長という人物をあぶり出してきた」。

道長はあくまで脇役だった青春時代、後宮を制する者が権力を握る状況下にあって幸運に恵まれた時期、権力奪取・維持のためには手段を選ばなかった時期、そして遂に、「この世をば我が世とぞ思ふ望月の欠けたる事も無しと思へば」と詠んだように栄華の絶頂を極めるまでが、生々しく描き出されています。

紫式部は道長の妾であったという説もあるが、著者は否定的です。「二人の関わりは、もっぱら道長長女の中宮彰子の女房として、また『源氏物語』および『紫式部日記』の執筆への支援(または命令)に限られる。二人が幼なじみであったとか、まして恋仲(または妾<しょう>)であったなどとは、歴史学の立場からは、とても考えられることではないのである」。

「道長は確かに、日本の歴史上、最高度の権力を手に入れた。しかしだからといって、最高度に幸福であったかは、誰も知ることのできないことである」という著者の結びの言葉が心に沁みます。