自分の傲慢さに気づき、愛する夫と娘を残して20代半ばで死を迎えた女性の手記に書かれていたこと・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3322)】
カルガモ(写真1~4)の親子をカメラに収めました。7羽の雛の無事な成長を祈るばかりです。ブーゲンビレア(写真5、6)、シラン(写真7、8)、ゼニアオイ(写真9)が咲いています。我が家では、サツキ(写真10)が見頃を迎え、アジサイ(写真11)、ガクアジサイ(写真12、13)が咲き始めました。
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閑話休題、『巴里に死す』(芹澤光治良著、新潮文庫)を書斎の書棚から引っ張り出してきたが、57年前に読んだ時とは印象がかなり違うので、戸惑ってしまいました。
結核のため20代半ばでパリで死を迎えた伸子が、3歳の娘・満里子が成人したら見せてほしいと夫・宮村謙一に託したノート3冊の手記という構成になっています。
1冊目のノートに記された伸子は、裕福な家庭育ちの傲慢な娘の延長に過ぎません。結婚前の謙一が5年間のプラトニック・ラヴ後に別れたという鞠子に対する嫉妬から逃れられません。ノートには、「浅はかな、愚かな私であつた」、「私は人生も人間も識らない小娘」といった表現が散見されます。
2冊目のノートの伸子は、貧しい出身ながら人格者である夫に相応しい女性、すなわち鞠子のような女性になろうと努力を続けます。「美しくない私」、「むろん私のひがみにちがいないけれど」、「私は私なりに、よい彼の妻になろうと決心した」、「少女の頃のようにすねて」、「私は心のなかに頑なものが巣喰つている」、「何から何まで、よこしまに彼を解釈して、良人に相応わしくない私であつた」といった言葉が頻出します。
3冊目のノートの伸子は、結核のため、産まれたばかりの満里子との接触が限定されてしまいます。しかし、「傲慢な娘のまま、心の準備もなく、お前のお父さんに嫁いだのです」、「いつもいつもすねたように、人とよろこびをともにできない、そして、嫉妬深い私である」、「ほんとうに私は我儘であつた」、「怨言を繰返していた」、「反省することもしないで、思えば、相手にばかり求める私の悪癖である」、「身勝手な私であつた」、「省みれば、良人を疑いつづけて、まことの足りない私であつた」と、反省を深めていきます。
そして、「私はこの世に生れたことを、感謝する。宮村の妻として巴里に来たことを、父や母にも感謝する。それほど倖せであつた。お前はすくすく成長するばかりではなく、お前の可愛い肉体のなかに、お前の精神が芽をふくのが、一日一日感じられて、日ましに可愛くなつた。お前とともにあつて、私は、愛情というものが自然に誕生するのではなく、創るものだということを発見した。母と子の愛情さえ、苦しんで創つてなるものであるものを、まして、夫婦の愛は生涯精進してこそ最後に授けられるものであろうということにも気づいた」と、思いを深めていきます。
これは、愛とは何か、結婚とは何か、親子とは何か――を考えさせられる、一人の女性の成長物語です。