小黒康正の『魔の山』の読み解きに魅了されてしまった私・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3339)】
シモツケ(写真1)、ヤナギハナガサ(写真2)、メドーセージ(学名:サルビア・ガラニチカ。写真3)、ネギ(写真4)、ノアザミ(写真5、6)、アスチルベ(写真7)が咲いています。チガヤ(写真8)の穂が風に揺れています。キノコ(写真9~11)が生えています。
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閑話休題、未登頂であった世界文学の最高峰の一つ『魔の山』に、いよいよ挑戦しようと覚悟を決めたのは、『トーマス・マン 魔の山』(小黒康正著、NHK出版・NHK 100分de名著)の小黒康正の解説があまりにも素晴らしいからです。
素晴らしい点はそれこそたくさんあるが、私なりに3つに絞り込みました。
その第1は、『魔の山』の全体像が俯瞰され、前半は主人公がデカダンス(頽廃)の世界に封じ込まれる物語、後半はデカダンスを克服しようともがく物語だと指摘されていること。
上流階級の無垢な23歳の青年ハンス・カストルプが7年間を過ごすことになる『魔の山』、すなわちスイスの高地にある国際結核療養所は、生と死、平地と高地、啓蒙とエロス、秩序と混沌、合理と不合理が渦巻く世界だったのです。
その第2は、トーマン・マンが本作品で訴えたかったことが示されていること。
小黒は、本作品のテーマは、「人間は善意と愛のために思考に対する支配権を死に譲ってはならない」と気づいたハンス・カストルプのデカダンスの克服だと断言しています。
「いつか愛が立ち現れるのであろうか」という最後の一文に、没落が反転して上昇に向かうことが示唆されていると述べています。
そして、『魔の山』は、誘惑物語であり、忘却と想起の物語であるとともに、第一次世界大戦で死を余儀なくされた多くの若者たちに捧げる鎮魂の小説でもあると読み解いています。
その第3は、『魔の山』が複雑難解な作品とされている理由が明らかにされていること。
トーマス・マンが『魔の山』執筆開始当初に考えていたテーマは、単純な若者がデカダンスの深淵に陥落するというものでした。ところが、執筆中に第一次世界大戦が勃発したため、後半のテーマは、「病気と死」から「生」へ、「生命とは何か」から「時間とは何か」へ、デカダンスを克服するにはどうすればいいのか――に移っていきました。このテーマの大転回が読者に難解という印象を与えているのだろうというのです。
『魔の山』そのものを無性に読みたくなり、数多くある訳書を検討の結果、『対訳 ドイツ語で読む「魔の山」』(小黒康正編著、白水社)のガイドによる登攀ルートに決めました。