榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

人間の暗い情念の重層・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3403)】

【読書の森 2024年8月7日号】 情熱的読書人間のないしょ話(3403)

アブラゼミの抜け殻(写真1、2)、ミンミンゼミの抜け殻(写真3、4)、クモの巣に捕らえられたチャバネアオカメムシ(写真6)、サトキマダラヒカゲ(写真7)、オオアオイトトンボの雌(写真8)、マメコガネ(写真9)、天敵に襲われたと思われるカブトムシの死骸(写真10)をカメラに収めました。ホオノキ(写真11)が実を付けています。

閑話休題、短篇集『暗い引力』(岩井圭也著、光文社)に収められている『堕ちる』は、背筋が凍るような作品です。

海外でキュレーターになるという夢を諦め、地方の美術館に転職した学芸員の相原加奈、32歳、独身。彼女は新しい職場で、藤代恒彦という、生涯、一人の女性だけを描き続けた画家の作品に出会い、これは広く世に知られるべき傑作だ、この無名の画家を埋もれたままにしてはいけないという使命感に衝き動かされます。

「加奈の胸は高鳴っていた。夢を諦め、地方美術館の学芸員として一生を終えるはずだった。しかし今、自分は絵画の深奥に触れようとしているのかもしれない。そう考えると、藤代恒彦との出会いは僥倖としか言えない巡り合わせであった。何としても、藤代の制作の真意に迫らねばならない」。

何としても藤代の回顧展を成功させようと奔走する加奈は、遂に、藤代の作品に隠された驚くべき秘密に辿り着きます。

しかし、物語はそこで終わらず、思わぬ展開が待ち構えています。

人間の暗い情念の凄まじさを思い知らされました。