すこしずつ悪者になる仄昏い胸に微かに響くマリンバ・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3461)】
幸運にも、旅鳥のエゾビタキ(写真1、2)に出会うことができました。ガのツマキシャチホコの幼虫(写真3)をカメラに収めました。ゴンズイ(写真4~6)が実を付けています。
閑話休題、短歌集『水上バス浅草行き』(岡本真帆著、ナナクロ社)で、とりわけ印象に残った歌を挙げてみましょう。
●恋人になれたわたしに遠くからゆっくり近づいてくるピピピピ
●ほんとうにあたしでいいの?ずぼらだし、傘もこんなにたくさんあるし
●働いて眠って起きて働いて擦り減るここは安全な場所
●親友は誰かと訊かれ透けてゆく体 廃村の春になりたい
●手遅れで手に入らないものばかり育ちの良さも既婚の君も
●パチパチするアイス食べよういつか死ぬことも忘れてしまう夕暮れ
●もう君が来なくったってクリニカは減ってくひとりぶんの速度で
●こんにちはーいちおう声をかけてから土足で部屋に押し入っていく
●防弾着、かならず買って。街中の銃はスマホのかたちをしてる
●水底の石をとるため視界からきみが消え去り 永い静寂
●平日の明るいうちからビール飲む ごらんよビールこれが夏だよ
●走り方変でもいいよ川もビルもあなたも光る夏の夕暮れ
●逆光の人たちみんな穏やかに頬の産毛を光らせて 秋
●文通はきっと私で終わるだろう 遺跡のようなしずけさの町
●番組に夢中になると開く口に差し込んでみるかっぱえびせん
●何百回も聴いてた曲に込められた意味がはじめてわかる 明るい
●美しい付箋を買った美しい付箋をまっすぐ貼れない私
●隣人がぴしゃりと閉める窓の音 今のはほんとうにぴしゃりだったな
●何者かにならなきゃ死ぬと思ってた30過ぎても終わらない道
●ライターで光灯せばきみがいて花火消えればまた闇になる
●すこしずつ悪者になる仄昏い胸に微かに響くマリンバ
●何度でもめぐる真夏のいちにちよまたカルピスの比率教えて
●迷い込む袋小路の団地から見える夕日に許されている
●ツインテールやめたあの子は押し黙る一角獣のような目をして
●深すぎた午睡の果ては水底の音楽室のような静けさ
●ファミレスは明るい居場所恋人になった気持ちで愛を囁く
●マフラーの中黙り込む唇が尖ってるのが僕には見える
●まだ明るい時間に浸かる銭湯の光の入る高窓が好き
●間違えて犬の名で呼ぶ間違えて呼ばれたきみがわんと答える
●ポニーテールをキャップの穴に通すときわたしも帽子もしっぽも嬉しい
●ほぐし水のようなあなたただ何もかも光ってみえる冬の坂道
●ねむってる駅ねむってる白い街ともだちだけどしたねむいキス
●紫陽花がぜんぶ白くてもう君に会えないことを知る夢のなか
●二人きりになればどこでもキスをしたエレベーターは地下まで沈む
●ほとんどもうセックスだった浮ついた気持ちでなぞりあうてのひらは
●性交渉なにを交渉するんだろう裸で触れるふたりで眠る
●口笛も花もだじゃれも潮騒も全部忘れて書いた履歴書
●体温を確かめあって繋がって深く眠って(ひとりとひとり)
●どうか解き放ってほしい熟れすぎてしまった桃は戻らないから
●銀杏をくさいくさいと言い合って歩いたきみはいない 半月
●食べてみる?差し出したのがなんなのか確かめもせず君は頬張る
●お花見の花も見ないで剥く牡蠣の殻の固さに笑い合う昼
●夢じゃないよねってうれしくなって聞く きみは夢でもうそがへただね
なぜか、心が伸びやかになる歌集です。